諦めの悪さは世界一


「……まじで言ってるんですかい?」



ずずいっと差し出したものを一瞥して、ため息を一つ。驚きと困惑が入り混じったような、そんな表情だった。

「俺は本気だよ」

刻まれた眉間の皺が更に深くなる。

「オタク大丈夫?正気か?」
「至って普通ですが」
「いやいやいや」

信じられないとばかりに、彼は言葉を次いだ。


「だってそれ、“聖杯”ですよね」



聖杯。
万能の願望器。

各特異点に散らばったそれらが、サーヴァントの霊格を上げるのに使える。自信満々で解析を叩き出したのは、我らが麗しき天才だった。

通常サーヴァントは、その英霊がもっとも強かったときである全盛期の姿で召喚される。しかしカルデアの召喚システムは未熟であり、この特殊な契約からか彼らの霊基は型落ちしていた。
レイシフト先で見つけた種火や素材を使って霊基再臨を行えばそれに近付くと判明して以来、合間を見つけては回収し、捧げていっている。
それがわかったのは聖都での戦いの後だ。
いつの間にそんなことをしていたのか、俺たちを集めてダヴィンチちゃんが嬉々として解説していたのは記憶に新しい。



「で、何で俺になるかねえ……」


大袈裟に頭を振ってロビンフッドは肩を竦める。

「っていうかあんた、あの赤いのに使ってませんでした?」
「うん」


最初に聖杯転輪したのは、赤い弓兵だった。召喚されてからずっと最前線に立ち続けてくれた彼は、正気かね、マスターと目の前の男とまったく同じ反応を返した。そこまで似なくてもいいと思う。
次に聖杯を捧げた青い槍兵はありがとよと快く笑って受け取ってくれたというのに。


「別に俺みたいな三流サーヴァントに使わなくったっていいでしょうに。他にたくさん相応しいのがいるだろ」
「ロビンじゃないと意味が無いんだって」
「……ほーんと酔狂で物好きなマスターだこと」

趣味が悪いと漏らす彼に出そうになる拳をぐっと堪える。うーん、思ったより手強いぞ。

「そんなに嫌?」
「ですね」
「なんで?」
「そりゃあんた、これ聖杯だぜ?」

その辺りわかってます?と半ば呆れたような視線が向けられる。
だからロビンに使いたいんだけどなと続ければ顰められる眉。出来ればそんな顔をさせたくなかったのになあ、なんて。これは口には出さない。

「あのねえ……こいつは世界一つ変えるほどの力を持ってる」
「うん、知ってる」
「そんな膨大な魔力、俺に使うのは勿体無いでしょ」
「どうして」
「他に使い所があるって言ってんの」
「でも俺はロビンに」


「っああもうわかんねえなあんたも!うちにはモードレッド卿だとか金ぴか王様だとかそういう強い前線組がいるだろ!そいつらに使えってこと!俺は後方支援だっつったろ!」


一気に捲し立てる姿にびっくりしてついその場で固まってしまう。ぜーはーと肩を揺らすロビンと目が合って。ハッと息を呑んだ彼は気まずげに逸らした。

「そういうことで、じゃ」


そのまま宝具であるマントに手を掛けたものだから、慌ててそれを掴む。今ここで逃げられるわけにはいかない。


「待って」
「っ、」
「お願いだから、行かないで」
「ああ、ほんと……この、頑固者」
「ロビンには言われたくないよ」


睨み合いの攻防の末、先に降参したのはロビンの方だった。両手を挙げて、俺の負けだと全面降伏。

「なんで俺なんです、ほんと……」
「ロビンとこれからも一緒に戦いたい、じゃだめかな」
「は、」

「他の誰かじゃない、ロビンフッドと一緒に俺は。君の隣で戦いたいんだ」

だから、どうか使わせてほしい。精一杯頭を下げる。これで断られてしまったら諦めるしかないけれど。それでも、隣はロビンがいい。




「ったく、あんたって人は」

盛大なため息が降ってくる。



「そこまで言われちゃ、俺も腹を括りますよ」


弾かれたように顔を上げれば、照れくさそうに彼は笑っていた。

「ま、最後まで付き合うって決めたしなあ。気が済むまで使ってくださいよ、マスター」

諦めの悪さは世界一


「ありがとう、ロビン!」
「うわっ、いきなり飛びついてくんなよ危ねえな!あんたは!」

2017.08.14
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