僕は現在、君の腹の中に居る。どくどくと蠢く風変わりな部屋に一人切り。食われたのだ、愛しい人に。噛み砕かれなくて良かった。丸飲みにしてくれたのは君なりの配慮ですか。出してくれよ、出してくれよ、と言わんばかりに壁を蹴ればゲロゲロと吐きそうな音が外から聞こえる。咳き込むと地震が起きたように揺れた。だけと絶対出してはくれない。僕が蹴れば蹴る程君は声を上げ、薬にすがる。白いそれを飲み込めば、気持ち悪さからか痰を吐いた。吐き出された痰は真っ白である。それでも諦めない僕はまた出してくれよ、出してくれよ、と壁を蹴り続け、仕舞いにはとうとう彼のお腹を傷付けた。痛い痛いと嘆き怒った君は、殺されるのかと悟ってしまうくらい僕を窒息寸前まで追い込む。壁がぐんぐん迫ってきて避けることなんて出来ない。赤い壁が、ぎちぎちと圧迫する。肺が潰れそう。破裂したそこにびゅうびゅう風が吹く。このまま僕は食べられてしまうんだろうか、このまま最期を迎えるんだろうか。君の中で命尽きるならそれもいいかもしれない。さぁ早く食べておくれ。一滴残らず絞り取ってくれ。腹一杯になったら出してもいいよ。その時はまた僕が巣食ってやろうじゃないか。僕は君に、何回でも食われてあげる。そんな深夜の出来事。

20110427