最近の彼の様子に違和感を感じていたのは確か。俺の元へやって来た謙也さんは涙ながらに言う。

「ごめんな、俺男やし子供産めやんくて。ごめんな」

鼻を啜りながらで上手く喋れていなかったけど多分そう言ったんだと思う。どうやら謙也さんは自分が男であることに負い目を感じているらしい。俯きながら涙を溢しているところ申し訳ないが、心底しょうもないと思った。そんなもの俺からしてみれば何を今更と言ったもので、二人の間に子供を授かれない事など謙也さんを好きになった時から分かっていた。同時にそれでもいいと思った。でなければ一緒になんていない。謙也さんと二人切りの人生か誰か他の女との子供かなら間違いなく俺は前者を選ぶよ。謙也さんあっての全てだと言っても過言ではないのだから。

「けど俺財前が好きやから、別れたくないねん。ごめん」

俺がどれだけ大丈夫だと言っても謙也さんは謝る事をやめない。肩を掴めば小さく首を振られ抱き締めることさえ拒否された。ならどうすればいいの。謙也さんを男に産んでくれたお母さんにありがとうとでも言えばいいの。それで泣き止んでくれるなら俺は全く構わない。謙也さんが男だから巡り会えた、謙也さんが男だから一緒にテニスをして仲良くなって今こうやって愛し合えている。全てのルーツは生まれてきてくれたことから始まっている。ほら、これ以上の幸せなんて無いじゃないか。俺、謙也さんとなら本気で結婚だって考えれるよ。男同士だとかそれが世間ではあまり喜ばしい事じゃないとかそんな事この際どうだっていいんだ。俺は部活の先輩である男の謙也さんを好きになった。その事実をねじ曲げようったって誰が許すもんか。

「謙也さん、結婚しよう。もし子供が欲しいなら養子を貰えばいい。代理出産だってある」

これは謙也さんを好きになった責任。同じ体を持つ二人が求め合った代償。ああ嬉しい、俺には謙也さんを愛さなければならないという義務がある。だからお願い顔を上げて謙也さん。ごめんなさいなんて言わないで、俺が一世一代のプロポーズをしてるんだからちゃんと聞いてよ。顔を覗き込んで言い聞かせると諦めかなにか、抵抗するのを止めた謙也さんは涙でぐちゃぐちゃの顔を俺に拭かれながらまた頬を濡らした。

「ありがとう」

20110820
ごめんなさいと思いながらも別れたくない謙也。