謙也さん、愛しとります。本間に愛しとります。頭でリピート再生された回数と実際口に出した回数は比例しない。

「財前ってなんで俺としてくれるん?」

だから謙也さんは俺がどうして謙也さんとセックスするのかよく分かってないし、そりゃ俺だって口に出したことは無いんだから分からなくて当然。どれだけ近くに居たって人の心までは読めないもの。むしろそんな簡単に読まれちゃ困る。

「謙也さんが、来るから」
「…そやんなぁ」

だけどこの人には“他人の心は読めない”などという常識が通用しないのか、謙也さんの心の内は解る、解る。それはもう面白いほどに。

「謙也さんは?」
「俺は、財前が好きやから…」

彼もよく飽きないものだ。いつまで経っても自分のものにならない男を好きでいるなんて。俺には、謙也さんが俺を好きだという、悪く言えば保険がある。なにがあっても彼は離れていかない。現に今も普通の人なら見破れそうな嘘に気付くわけでもなくだからと言って信じた果てに怒るわけでもなく、俺とのこの関係に甘んじている。なのにどこか悲しそうなのは諦め切れないからなんだろうな。

「財前は…俺のこと好きじゃないもんな」
「………」
「………」
「俺謙也さん以外とキスしたりセックスしたりせえへんよ」
「本間に…?」
「謙也さんには嘘つかへん」

どこぞの浮気男みたいな俺の返事にじゃあいいや、と抱き付いた謙也さんの顔からは嬉しいのか悲しいのか読めなかった。あれ、謙也さんなのに。謙也さんなのに心が読めない。もし謙也さんが俺じゃない他の誰かの所へ行ってしまったら、俺もこんな風に笑うんだろうか。分からない。自分の心も読めない。

「謙也さん次いつ会える?」
「明日、明日は」
「じゃあ迎えに行く」
「…迎えに行ったりすんのも俺だけ?」

好きな子には尽くしてあげるタイプなんです。なんて言ったら誰かに打たれそうだな。そんなことは分かるのに、どうして謙也さんがこんな俺とセックスしたがるのかはやっぱり分からないままだった。どうしていつまでも好きだと言わない俺を好きだと言えるの。我慢強いのだろうか彼は。

「うん、謙也さんだけ」

また謙也さんはこの関係に甘んじた。そして好きだと呟いた。俺は気付いてないふりをした。

20110825