新学期、綺麗になった俺の学ランには微かにクリーニングの匂いが残る。嫌なわけではないけど、せっかく謙也さんと屋上で二人っきりだというのに時たま鼻に付くそれが気になって少しイライラする。どうせなら違う匂いがいい。例えば、

「ちょ、どしたん財前」

クリーニングのカバーから出してあったのか、謙也さんの学ランを匂うと謙也さんの匂いがする。俺のとも違う、他の部員のとも違う、馴れ親しんだ独特の匂い。いきなり抱き付いた後しばらくして無言で離れた俺に、なにがしたいんだとでも言いたそうな顔をしてるけど面白いから言わないでおく。分かってない謙也さんも可愛い。風に乗って、またこの人の匂いがした。

「謙也さん香水かつけてる?」
「つけてないけど」
「そうすか」
「そんなにおいとかする?」
「まぁたまに」
「え、俺臭いの!?」
「さぁ」

俺の適当な返事に露骨にムカついた顔をする。誰も臭いとか言うてへんのに。勘違いするような言い方をしたのは俺やけど。本間は大好き。いい匂いやし、肩がくっつくくらい近寄って座ったり抱き締めたりキスしたり、そんな時にふわっと香る謙也さんの匂いに俺は特別なんだと嬉しくなる。俺だけが知ってる、俺だけの特権。

「謙也さん、今日学ラン交換しよ」
「は、サイズ合わんやろ」

うわこの人、俺が気にしてること言った。珍しく謙也さんへの愛を語ってるとも知らんと。

「くそ。じゃあ、夏になったら俺の学ラン謙也さんの部屋に置いといてください」
「冬になったら?」
「取りに行きます」
「お前は何がしたいん」
「別になんもしたくないです」

仕方ないから夏までってことで折れてやる。その代わり謙也さんがなんぼ嫌や言うてもチャイムなるまで弱い首元に顔うずめたるからな。そういえばそこら辺ってフェロモンが出るんやっけ。ああ、俺もまんまと惹き付けられてんのか。

20110816
期間、謙也さんの匂いが付くまで。