※微微裏

「なぁ、自慰とかしねえの?」

只今覚醒くんと二人っきり。僕と覚醒くんは双子のようなものだと思っているけど(あくまでも僕は)やっぱりここまで性格が違うとなると他人な意識が強くなってしまう時だってあるわけで、挙げ句の果てに何か性的なものを感じてしまう事だってあるわけで。いや、違うんだ、そうゆういやらしい意味ではなくもっと爽やかな意味。別にその子に特別な意味はないけどやっぱり隣に異性が座ればそれなりに意識してしまうみたいな、あるでしょこうゆう事。ってなんかもうこんな事を言ってるとまるで中学生みたいじゃないか、思春期か僕は。だけどこの胸の高鳴りはそんな子供らしいものじゃなくて、もっと、こう、締め付けられるような。兎に角思春期なんてものじゃないような気がする。しかもその相手が可愛いくもなければ女の子でもない、僕と同じ髪色の短髪に同じ迷彩服を着た男だ。これって爽やかな要素無いよね。

「何を言い出すんですか・・・!!」
「いや、だからしねえのって、自慰」
「いや、その、だからっ、」
「だからぁ、自慰、オナニー!」
「しませんよ!!」
「お前男?」
「男です!大体そんな事話しませんよ」
「じゃあ俺言おうか?」
「いいです・・・」

さらっと放たれた言葉に思わずその様子が頭に浮かんだ。これだけでもうどうしていいか分からないくらい心臓がバクバクしてるんだから僕って相当情けないと思う。膨らんだ妄想にあたふたしていていたら想像しただろ、と何か企んだように不敵に笑われてゾクッとした。

「だってお前がしてるとこ見たことねぇし」
「当たり前です」
「なぁ、ホントはしてんだろ?だって男がしないなんて無理じゃん、体の構造的に」

ずかずかと歩いて来てこんな事を言ってきた。どうしよう、今凄く恥ずかしい。顔を近付けられれば自分でも火照っていくのが分かる。前を向いたままの僕には見えないけどきっと覚醒くんは笑っているはず。僕はこのいじめっこのような笑顔にいつも勝てないんだ。耳元で囁きながら僕の反応を見てニヤニヤと笑うこの人は人をからかうのが大好でその対象は何故か僕。ああ、頼むから耳に息を吹き掛けないでください。

「や、やめてください・・・っ」

ただひたすらにズボンを握って必死にこの緊張と羞恥に耐える。逃げ出したいのは山々だけどそうしたところで覚醒くんに押さえ込まれるのが目に見えているし、そうなれば今よりもっと酷い状況になるから我慢。覚醒くんに勝てるわけないんだ。双子なんて言いつつ二人の力の強さは全く違う。

「耳だけでこんなになる奴が一人でしない、ってそりゃ無理だろ。夢精するまで我慢してんのか」
「変な事言わないでくださいよ!!」
「じゃあどうやって処理してんの、教えてよ」

ふざけた雰囲気から彼の声のトーンが一気に落ちる。僕に自らの口で言わせたいんだろう。どれだけ困らせれば気が済むの。教えてよ、なんていつもと違う優しい喋り方につい何かを期待してしまいこれから起こる展開に体が反応する。いつの間にか覚醒くんの作戦に乗せられていたみたいだ。我ながら情けない、と恥ずかしさで一杯一杯になっていたら手を触られた。

「あ、ちょっ、」
「なぁ、教えてくれよ。俺分かんねぇんだもん、軍人がどんな風にしてんのか」

僕と違い少しごつごつした妙に色気のある手で拳をするすると撫でられる。戦場で使い込めばこんな風になるのだろうか。手を通じて緊張が増す一方、暖かい息がリアルに脳に伝わってまるでどうしていたか言ってみろ、と無言で問い詰めてくるみたい。反則だ、こんなの。

「あっ、や、む、無理です」
「どーだか。オメェ男なんだろ?だったら経験あんだろ、起っちゃった、って」
「もう本当に・・・っ!」
「ここ、どんな風にしごいてんだ?」
「あっ!!」

いきなり手を移動させられて我に返る。大きな手にグワッと握られれば熱く、ぼーっとしていた脳に衝撃が走って僕は今とんでもない事をされているんだと気付いた。

「やっ、駄目です、やめて・・・っ」
「真っ赤んなっちゃって、以外と感度いいんじゃねぇの?」
「ん、・・・ああ」

強弱をつけて揉まれれば、経験した事の無い感覚に口からは恥ずかしい声しか出ない。だらしないな、僕。手をどけようとしても快感に耐える事に精一杯で感覚くんの手に自分の手を添えているだけになる。怖い、体がビクヒクと震える。

「な、なにしてるん・・・」
「もう我慢できねぇ」

そう言って覚醒くんがベルトに手を掛けたのを見て一気に青ざめた。ちょっと待って、今から何をする気だ。

「や、ちょっと!」
「うっせぇ黙ってろ」

一蹴りされた言葉に不安が倍増して声が出なくなる。まさかこのまま最後まで、なんて無いだろうな。今まで覚醒くんに追い詰められたりキスされそうになったことはあったけどいつもなんとか振り切っていたから勿論それ以上のこともしたことなんてないわけで。兎に角ここから逃げ出さなければと思ってもがいたけど元々力なんて比べ物にならない上、腰は未だにビクビクしている。唯一正常に動く頭でこの先の事を考えるともう焦りしか生まれない。目の前には余裕の無い顔をする覚醒くん。

「・・・嫌だぁ!!も、やめてください!!」
「・・・ちょ、」
「も、これ以上無理です、怖い・・・っ」
「怖いって・・・落ち着けお前」
「だ、だって、覚醒くん・・・っ」
「ちょ、泣くなよ」

いきなり出した大きな声に驚いたのか珍しく本気で抵抗した僕に覚醒くんは動きを止めた。こんな覚醒くんはあまり見れない。当の僕も、恥ずかしさと焦りと恐怖でこんがらがっていつも以上に取り乱しているのだけど。

「ほんとに、怖かった・・・っ」
「だから悪かったって」

さっきと全然違う優しい顔に戻った覚醒くんは困ったように僕をなだめる。なかなか見れないその様子が不覚にもなんだか可愛いと思えた。覚醒くんを可愛いと思える日が来るなんて少し前の自分が聞いたら驚くだろう。涙を拭いている最中、まるであやすように抱き締められて先程までの怖さがだんだん消えていった。

「どうしたら泣き止むんだよ」
「・・・分かんない」
「腰、痛くねぇか」
「あっ、だ、大丈夫・・・」
「反応良すぎんだよオメェは」

こんな時でも腰を触れられて体が震えるあたり都合のいい体だとつくずく思う。ごめんね覚醒くん。撫でられた腰が温かくてその手つきから必死に優しさを感じ取ろうとする僕は単純だ。

「その顔、英雄には見せんなよ。見せたらぶっ殺すからな」
「え?」
「大工もモールも駄目だ。あのウドの大木も何すっか分かんねぇ」
「ウド・・・」
「まじで他の奴の前でやめろよ」
「覚醒くんがこんな事しなければなりませんよ!」
「お前隙だらけだからなぁ」

その隙につけ込んだのは誰ですか、と聞いてやりたい。都合がいいのは彼も同じで、僕をからかって遊ぶ覚醒くんはやっぱり自分勝手だ。お願いだから他の人の前でこんな事しないでください。それとこんなからかい方もやめてください。僕は身が持ちません。

「俺にだけだぞ」
「誰にも見せません!!」

僕で遊ぶその人に今日もまた嵌められた。けど、きっと彼は飽きずに仕掛けてくる。そしてそれをいつしか僕は待つようになっていた。ただの双子だなんて言っていたのに。だからどうか、次は優しいキスからお願いします。なんて。

20110423
20110824加筆修正
話ぐだぐたで直すのに凄い労力。