Clap
Lost Of Memory(05)




空を闇色に染める時間帯。
少し前まではソフィたちもいたけど、お互いに一言も話さず帰っていった。
毎日それの繰り返し。

「?」

「兄さん、どうしました?」

「なんでもない、けど…何か物音が聞こえたような…」

ガタ、と窓の方から物音がする。
ヒューバートが俺を守るように、窓際に移動してきてくれた。

「…ヒューバート」

「大丈夫です。あなたはぼくが守りますから」

「う、うん」

諭すような声音と共に頭を撫でられ、不安がすっと消えていく。
ガタガタと数回の物音の後、窓が勢い良く開けられた。

「…アスベル、いる?」

「え?」

入ってきたのは紫苑色のツインテールを揺らすソフィだった。
武器を構えようとしていたヒューバートは、安堵の表情を浮かべてそれから手を離した。

「えっと…ソフィ?」

「うん」

「ど、どうして…そんなところから?」

「アスベルに渡したいものがあったの」

「この時間帯は面会ができませんからね」

「……冷静だな」

渡したいもの、と告げるソフィの手には、紫苑色の一輪の花が咲いていた。

「アスベル、これは――」

「…クロソフィ…」

「え、兄さん…どうして、その花の名を…」

「わからない。でも、これはわかるんだ」

何故かはわからない。
けれど、この花の名だけは憶えている。
大切な、何かと関連していたような気がするのに。
忘れては、いけない何かを。
俺はやはり、忘れてしまっているらしい。

「…思い、出さなきゃ」

言い聞かせるように呟いた言葉は、ヒューバートたちには届いていなかった。






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