コード・ゼロ

  沈溺の音 3



扉を開けた先に待っていたのは月明かり一つない夜と
キングを捕らえに来たというには随分と厳かな一団であった。
中には敬意のようなものすら感じられて、鷹斗は暫し戸惑いながらも
彼らの余裕は撫子を人質に取っているからだろうとして、目の前の男を睨みつける。


「撫子はどこ?」
「クイーンはこちらで保護しております」
「…彼女に何かあったら、俺は君たちを許さないよ」
「今すぐにクイーンの身に何かあるというわけではないのでご安心を」


今すぐに、という言葉に引っ掛かりを覚えつつも
鷹斗は貼りつけたような冷静さで目の前の男に質問を重ねる。


「…君たちの狙いは俺、だよね?有心会と何か関係があるの?それとも…」
「有心会とは何の関係もありません。
寧ろ、我々は彼らに対抗したいと考えております」
「対抗?」


探り合うような会話の中で、有心会の名を出したところ、男は不満げに眉を寄せた。
そしてそれは、ここに集まった人間全員にもいえることで。
周囲からは不快感であったり憎悪感であったりを感じ取ることができる。
彼らが有心会と敵対関係にあることは真実であるようだと思い知った鷹斗は
益々、面白くないとして視線を落とす。


「あなたがキングの座を退かれてからというもの、
世界は堕ちるところまで堕ち、動くことを止めてしまった。
それでも、国民たちは有心会に対抗する術を持たず。ただ、現実を嘆いています」
「そうかもしれないね」
「そこで我々は国民の支持の元、キング主導の政府を復活させたいのです」


鷹斗自身、政府に管理されていた日々に戻りたいという声を
聞いたことがないわけではなかった。
数か月前まではキングを悪党に政府解体を祝し
お祭り騒ぎしていた連中までもがそんなことを口にするものだから
忙しなく感情が変わる彼らを理解できず。どこか遠くに感じていた。

それでも、撫子が囚われてしまっては他人事のように眺めてはいられない。
望まれた通りに玉座を明け渡し、何の争いも生まぬよう慎ましく暮らしていたというのに
全く勝手な連中であると怒りもするし、
また撫子を自分の運命に巻き込んでしまったと悔やみもする。

幾つもの感情に荒れる心。だけど、中心にある答えだけは揺るがなくて。
よく考えてみれば、追手に怯えながら暮らし続けているよりも
一度は諦めた平穏を別の形で叶えるチャンスなのかもしれないと募る想い。


「分かった、君たちと一緒に行くよ」
「懸命なご判断です」
「言っておくけど、全ては撫子のためだから。決して君たちに従うわけじゃないよ」


男は鷹斗の答えに満足げに笑みを浮かべるばかりで
付け足された言葉には頓着していないようであった。
いや、正確に言えば鷹斗が何よりも撫子を優先することが
好都合といったところなのだろうか。

撫子を人質にするような連中を鷹斗は端から信用はしていなかったため
彼らがみせる安堵も期待も特に気にすることはなく。
ただ、再び手に入った駒をどう扱おうか。
そして、大切なクイーンをどう守ろうかと思案するのだった。





END


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