DESIRE ROSE
アヤト(→)ユイ
アニメ2期8話


ふと足元から崩れ落ちる小さな身体を抱き留めた。
瞼を固く閉じた蒼白い顔は死人のようで一瞬ひやりとしてしまったが
彼女の鼓動は弱々しくもはっきり伝わってくる。
そのことに安堵したのは一瞬で。
牙を抜いたばかりで赤滴るそこを拭い見える痛々しい傷に顰め面が浮かぶ。

こんなにもユイの血を貪り吸い尽くしたというのに渇きは満たされない。
この数週間、血欲しさに彼女を探し続けていた。
それが今自分の元に戻ってきて良かったと思えないのは何故か。
認めたくない想いから目を逸らしながらも
白い肌に散らばった痕一つひとつに触れたアヤトは悔しげに奥歯を噛んだ。

自分のモノではない牙の痕を見た瞬間、込み上げた感情はとても熱いもので。
牙を突き立て、流れ込んでくるそれと合わせて身体を熱く滾らせた。
今も火傷の痕みたいにヒリヒリと残る感覚に対し、
激しく打ち付ける雨と胸に抱いた身体は冷たすぎて。
この世界で自分だけが一人浮いているようにさえ思えた。



「あれあれ。ビッチちゃん、アヤト君に捕まっちゃったんだ」


ぐったりと力を失くした身体を横抱きに抱え、
冷たい雨の雫を滴らせながら帰宅したアヤトに投げ掛けられたライトの言葉は
待望と退屈の両方が滲んでいるようで、
最初からこうなることは分かっていたと言わんばかりの笑顔を含め、腹が立つ。

更に、新しい傷口から漂う甘い香りに舌舐めずりをされては
ライトのほうがよっぽど餌に飢え、ユイをそれとしか見ていないようで。
いなくなったユイを探そうとしなかった他の兄弟と比較しても
アヤトだけが彼女に特別な感情を向けているのは明らかだった。


「あぁ。僕もう喉カラカラだよ。ねぇ、アヤト君。ビッチちゃんを…」


ライトの言葉を最後まで聞くことなくアヤトは姿を消した。
一瞬も等しくユイの部屋に辿り着くも
水気を含んだ二人の身体はただベッドに横たわるしかなく。

水に沈んでいるのか、乾き飢えているのか、
はっきりとしない現状に苛つきをみせたアヤトは
少しでも気を紛らわせようとベッドを軋ませ、
無防備に晒されたユイの首元に唇を寄せた。
しかし、白い肌に牙が触れるか触れないかのところで気が削がれ、
舌打ち交じりに重い身体をベッドから起こす。


ここまで一向に目覚める気配のないユイを見下ろしていると
彼女がいなくなってからの数日を思い出してしまう。
二度とこんな想いをするのは御免だ、と苦々しい表情をみせたアヤトは
柄にもなく「早く目を覚ませよ…ユイ」なんて言葉を零す。

しかしすぐに我に返り、これ以上、欲に溺れてなるものかと目を逸らし
ユイの着替えと監視を使い魔に任せ、甘い香り漂う部屋を後にするのだった。





End



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