ウルザブルン
キョウゴ×ルシア
GOOD END


世界樹の大砂時計を中心に咲いた栄華。アルビオン。
正義と悪、貧困と裕福、出会いと別れ、愛と哀、
様々な人生が一緒くたになって広く続いている大領都で暮らしているようで
その実、生きている世界はそんなに広くなくて。

一歩外に出れば見知った住人達が親しげに声を掛けてくれるし
幾つもの繋がりで噂話なんてあっという間に広まってしまう。
特にキョウゴは顔が広いため
甘いケーキと愛らしい笑顔が評判の看板娘と付き合い始めた、なんて話は
瞬く間に知れ渡ってしまい、夕方の買い物に2人出かけただけで
「デートかい?」と多方からからかわれる始末。

中には、2人はいつ付き合うのかじれったく思っていたなんて人もいて
親戚連中か、と突っ込みたくもなるけれど
皆一様に温かく見守ってくれていることが嬉しくて。
今日も黄昏と光砂の輝きが混ざり合い、色付いた街を2人並んで歩く。


「まさか、本当に2人が付き合うとはなぁ。羨ましいぜ」
「まぁ、キョウゴはもうずっとルシアちゃん一筋だったしな」
「けど、こいつはヘタレだから告白なんてできねぇだろって話してたんだよ」


買い物の途中、例によって見知った青年3人に声を掛けられ
好き勝手言われているわけだが、キョウゴなんてお構いなしに
ルシアを中心として話されるそれに些か決まりが悪くなってしまい、
慌てて制止に入るも彼らは悪びれることなく
「まぁ、仲良くやれよ」そう言ってへらりと笑うから、気勢を削がれてしまう。

話題を引きずったまま、去っていく3人の影を
睨むような眼差しで見送ったキョウゴは
ほんのりと赤くなった頬を掻きながら、改めてルシアと向き合った。


「え、と…わりぃ。あいつらのせいで足止めくって」
「うんん。キョウゴの話が聞けて楽しかったよ」
「ったく、あいつら、余計なことばっか言いやがって…」


髪をぐしゃぐしゃ掻き乱し、照れを誤魔化していると
すぐ隣から、くすりと花が揺れるような笑い声が聞こえてくる。
不思議に思って視線を向けたなら透き通った輝きをみせる眼差しと合致し、
「キョウゴは人気者だね」そんな言葉を掛けられるから、困ってしまう。

キョウゴが勇者なら、自分は従者程度だとしているルシアに
幸せにしてやれ、泣かせたら許さないなど
ルシアを想う住人の言葉を聞かせてやりたいものだ。
先程の3人だって少なからずルシアに好意を持って、幸せを願っており、
本当に人気があるのはルシアなのだとキョウゴは常々思っていた。

そして、大領都に散らばる出会いの中で
どうしてルシアは凡庸な自分を選んでくれたのか、と考えてしまうのだ。

勿論、今さら手放すことなんてできないし、
自分を犠牲にしてでもルシアを幸せにする覚悟はある。
ただ、ふとした時に臆病な自分がチラつく。


「キョウゴ、また困った顔してる」
「そうか?別にいつも通りだろ?」
「私、キョウゴを見ていると時どき不安になるの」
「え?」
「今も。なんか、私から離れていっちゃいそうで」


ずっと一緒にいたのに、どうして今更。とキョウゴは思ったけれど
それは自身の疑問にも当て嵌まることだと気付き、バツが悪くなる。

互いに良いところも悪いところも全て知っているのだ。
共に過ごした日々の中で、嫌いになるならとっくになっているだろうし
何はなくとも離れてしまうことだってあり得たところ、距離も変わらずにいる。
世界の終焉なんて事件を機に、漸く縮まったくらいだ。
格好つけたり、不安に思ったりなんてしなくても
2人の関係はそう簡単に揺らぐわけがないと
次の千年紀という途方もない刻に思い巡らせながら考えた。


一つの嘘も見逃さないとばかりに、じっと見つめてくるルシアと
改めて視線を絡めたキョウゴは真っ直ぐな瞳に観念し
「離れるわけない。俺にはルシアが必要なんだ」と素直に告げる。

騎士とか勇者とか、況して人気者には不釣り合いな弱さが滲んだ言葉に
ルシアはひどく驚いていたようだったが
次の瞬間「私も同じだよ。キョウゴがいないとダメなの」そう言って笑った。


小さな世界を救った2人の語り継がれることのない物語。
勇者も姫も登場しない平凡なそれだが
これから先、千年分の愛が綴られることだろう。







End





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