ノーアトゥーン
キョウゴ×ルシア
本編 001day 00.00.00


ここが病院であることを忘れそうになるほど、穏やかな空気漂う仮眠室。
月明かりが照らすベッドは2人で眠るには窮屈で
固いマットレスと動くたびに軋むパイプはとても寝心地が良いとは言えない。

それでも、胸の中の温もりを感じながら微睡んでいると
静かな水面上をゆらゆらと漂っているような気分になる。
もう、どれくらい浮かんでいたのか分からなくなってしまったが
目を開けて、朝がきていなければそれで良かった。


「ルシア…?」


寝息が聞こえるけれど顔はよく見えないため、名を呼んで確認する。
暫し待っても反応はなく。
安堵したキョウゴはルシアに枕として貸している腕を軽く動かした。
じんと末端から伝う痺れが気になるけれど、返してもらおうとは思わない。

少し身じろいだだけでルシアは小さく愚図って、擦り寄ってくるから。
傍にいてほしいと望まれている、なんて自惚れてしまう。


「ごめんな…ルシア。ずっと一緒にいてやれなくて」


掠れた声を零し、薄闇の中で探るように彼女の頬に手を伸ばした。
こうしている間も心臓は蝕まれているというのに、不思議と恐怖を感じない。
錆びゆく歯車みたいに、ぎしぎしと軋みながらも時を刻んでいたそれは
次第に動きが鈍くなって、停止してしまう。

明日の舞台を終えた瞬間かもしれないし、
最後の歯車を見つけた瞬間かもしれないその時を
今みたいにルシアの温もりを感じながら迎えたい、と残酷なことを考える。


「お前を泣かせるのは心苦しいけどさ…最期まで傍にいてくれ、ルシア」


無理に笑わなくても、惜しむ言葉をくれなくてもいい。
況して、砂時計を使おうなんて考えないでほしい。
ただ、傍にいてくれるだけで十分だから。

そんなことを考えながら、ルシアの首に掛けられた砂時計へ視線を落とすと
まるで願いが届いたかのように淡い光が広がってみえた。
薄紫の優しい光はルシアの寝顔をぼんやりと照らし、
スイートピーに囲まれた彼女を思わせる。

朝がくるまで、時間の許す限り、見つめていたいけれど
甘く切なく、そして懐かしい空気に引っ張られ、意識が遠くなっていくよう。
いつもは少しの恐怖があって抵抗してしまうところだが、
今夜は素直に重たい瞼を下ろした。

そうして見えてくるのは、暗闇ではなく温かな光。
スイートピー畑に寝転んでいるような心地で微睡んで
ルシアが起こしてくれるのを待つことにしようと思う。







End





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