Pink×Cross
契×市香
契√ GOODEND



昔からお化けやゾンビ、殺人鬼などの類が苦手で
ホラー映画というものを避けて生きていた市香だが
契と付き合うことになり、彼の部屋を頻繁に訪れるようになってから
それを観る機会は分かりやすく増えた。

当初は怖がるばかりでストーリーなど頭に入らぬままエンドロールを迎えていたが
台詞や背景に注意してみるとホラー映画お決まりのパターンがあることに気付く。
例えば自分勝手に集団から抜けて一人になった者は必ず襲われてしまうし
映画の中の警官は役に立たないまま終わることが多い。
シャワールームのカーテンや洗面所の鏡は危険信号で、
何もないと思っても油断した瞬間に襲い掛かってくるため要注意だ。
そこまで分かっているとはいっても怖さが軽減されるわけではなく。
ただ心構えができるぶん、心臓への負担は減ったように思う。

しかし一つだけ、市香を悩ませるホラー映画にお決まりのシーンがあって。
今もそれに直面し、あたふたしていたりする。


「っ…!」


激しくベッドが軋む音に混じる二人の熱い吐息。
暗がりで視点を外したベッドシーンとはいえ、
甘い声が響くたびにいけないものを見ているような気にさせられる。
ここで席を立つのも変に思われるだろうし、
目を覆うのも視線を逸らすのも意識しているようで逆に恥ずかしい。
隣でこれを見る契はどんな表情で、どんなことを考えているのか気になるも
目が合うのが怖くて、確かめられぬまま。
結局、随分と長いそのシーンをできるだけ平静を装いながら
見続けることしかできずにいた。


「ねぇ、市香ちゃん」
「っ!は、はい…!」
「なんか緊張してる?」


画面の中の艶やかな息と声は絶頂に達しようとしている。
そんな時に耳元で囁かれたものだから、意識が現実へ引き戻されてしまう。
妙に鼓動が速くなって、肩に力が入る。
そんな市香を見て楽しんでいるらしい契は悪戯に笑いながら
力の籠った拳を容易く解いて自分のそれに絡めると
「そんなに怖い?それとも、意識してる?」そんなことを問うてきた。


「お、岡崎さんは…平気、なんですか?」
「ん〜。そんなこともないよ。俺もすごくドキドキしてる」
「ほんとう、ですか?」
「うん、本当。市香ちゃんの反応一つひとつが可愛くて、意識しちゃう」
「っ…それは」
「だからね、市香ちゃん。俺を慰めて」


観ていた映画が次のシーンに移る直前、ぷつりと消されてしまう。
真っ暗になった画面に映るのは重なり合った二つの影。
自らを組み敷いた契とテレビを交互に見遣って
必死に現状を把握しようとする市香の姿に契は切羽詰まった表情で
「映画の続き、観たい?」と疑問をぶつけてくるから、
市香はますます困ってしまうも、答えは案外簡単に出て。
首を横に振ると、今までの緊張が嘘のように小さく笑った。


「市香ちゃん?」
「もし、ホラー映画だったら私たちも殺されてしまうなって思ったんです」
「あぁ…繋がりを持ったカップルが襲われるのはホラー映画のお決まりだからね」
「少し、悲しいですよね」


こんな状況でムードのない話だとは思うけれど
生命を繋ぐための行為によって死を生んでしまう。
何だか複雑だと眉間にシワを寄せて考え込む市香に対し
契は市香ちゃんは真面目だなと言わんばかりの表情で、
先程からフル回転の頭に口付けを落とす。


「大丈夫。俺たちはそんなことにはならないから。
どんな時でも、どんな相手でも市香ちゃんは俺が守るよ」
「そういうことじゃなくて…っ!」


怖がっているわけではないと伝えようとしたところで
少し強引に唇を塞がれてしまった。
次第に深くなっていくそれに夢中になる頃には
映画のことなどすっかり頭の中から消えていて。
市香は目の前の甘い物語に夢中になるのだった。






End

privatterより再掲



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