五人目 11




side:泉



「じゃあ先に行ってるね」


「おう、俺も用事が終わったらすぐに行くから。沖、よろしくな」


「ああ」


二人が教室から出ていくのを笑顔で見送る。
途中、葵が何かを言いたげにこっちをチラチラ見ているのに気づいたけど、それに気づかない振りをして笑顔を貫き通した。


(……これから話すことは楽しくもない話だろうし、何より葵に聞かれたくないしな)


そう一人心の中でごちて、ゆっくりと振り返る。
視線の先には、これから何があるのかと戸惑う様子の葵のクラスの奴ら。
落ち着いて話ができるように目を瞑り大きく深呼吸して、強い視線をそいつらに向けた。


「俺が言いたい事は一つだけだ。お前ら、何考えてんの?」


「? どういう意味だ……?」


葵が相良君と言っていた、相良大和が他の奴らの心情を代弁するかのように訊いてくる。
どういう意味って……


「そんなの分かんだろ。急に掌返したような態度で葵に接してるけどさ、何か企んでんじゃねーの、って言いたいんだよ」


「なっ……」


「俺は風紀委員の一員でもあるし、生徒の誰かが苦しんでいたら何か手助けをしたいと思っている。それ以前に葵は俺の大事な奴だしな。だからもしお前らが何か企んでるなら……」


「そんな事するわけねーだろっ!」


「おい、神山っ、止めろ」


今にも掴み掛らん勢いで俺の言葉を遮ったのは、神山彬。
確かこいつは大分葵に突っかかってたうちの一人だったはず。
でも今は相良大和に肩を掴まれながらも、鋭い視線を俺に向けている。


「泉も此処にいる全員を煽るような事言うなよ。俺たちは桃園を傷つけようなんて思ってない」


目を逸らすことなく紡がれる相良大和の言葉に嘘はない、だろう。でも、


「…お前らがそんな事言って信じられるとでも思ってんの? この間までお前らがどんなふうに葵を見てたのか、どんな感情を葵に向けてたのか調べていないとでも思ってんの?」


「「……っ」」


「他の奴だって最近は葵の事を気にかけているみたいだけど、少し前までは葵に対してあんまりいい感情持って無かっただろ? ……まあ、葵は何故かちょっとその事に対して許しているみたいだけど、」


「でもだからって今まで自分たちがしてきたことが本当に許されると思ってる? 俺が言う事じゃないかもしれないけど、お前ら都合よすぎだろ。謝って、許されて、今までの事をなかったことにして仲良く、なんて図々しくないか?」


俺の言葉に大半の奴が悔しそうに下を向いた。
さっきまで俺を殴ろうとしていた神山も震える拳を押さえつけるようにしている。
でも誰かが俺に何かを言う様子はない。
それを何の感情を込める事もなくただ見ていた。


……もうこいつらに言う事はない。
ここまで言われて何も言わないなら、その程度って事だ。
さっさと葵を追いかけようと踵を返そうとした時、視界の中で何かが動いた。









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