五人目 09




「…明日から一ヶ月、泉に桃園君の護衛として一緒にいてもらおうと思っているのですが」


「明日から…泉君にですか?」


「はい。泉は桃園君と同学年ですし、私たちがつくよりも桃園君が緊張しなくていいと思いますし…」


「でも泉君の仕事はどうするんですか?」


書記様が仕事をしているからと言って、風紀に流れてくる生徒会の仕事が大幅に減ったとは考えにくい。
あんなことがあった以上、風紀の誰かが傍に居てくれた方が安心できるけど……
自意識過剰かもしれないけど、それでも僕のせいで仕事が滞ることになってしまったら、と考えたら申し訳ないという気持ちが出てくる。


「泉は今校内の見回りを重点的に行っているのでそちらの心配は大丈夫です。桃園君の護衛をしながら見回りもできますし」


「………」


見回りだけなら大丈夫かもしれない。
けど、


「葵、俺も副委員長もお前を危険な目に遭わせたくないんだ。こう見えても俺黒帯だし、護身術も習ってる」


「! そうなの?」


泉君がそんな有段者だなんて知らなかった。
しかも護身術まで。
本当に此処の風紀を取り締まる風紀委員の一員なんだと改めて感じる。


「ああ、俺の仕事は今のとこ見回りがほとんどだし、見回りも基本的に朝と放課後だ。朝は葵を教室まで送った後見回りするし、放課後は葵を寮まで送った後に見回る」


「それじゃあ、泉君が大変じゃ…」


それに迷惑になるし、そう続くはずだった言葉は泉君の発した声によって遮られた。


「葵には窮屈な思いをさせるかもしれない。鬱陶しく感じるかもしれない。でももし迷惑になるなんて思っているならそれは違う。迷惑なんかじゃない、寧ろそれで葵が護れるなら俺は嬉しい。だから俺に葵を護らせてくれ」


「……………っ」


真っ直ぐに僕を見て真剣な表情でそう言った泉君に、数秒間を開けて泉君の言葉を理解した途端顔に熱が集まるのを感じる。
格好良すぎるその言葉は女の子を相手にしているように、甘く、強い言葉だった。
そんな意味で言っているのではないと分かっていても、恋人に囁くようなセリフに心臓が物凄い勢いで全身に血を送るのを感じる。


「俺は全く迷惑だと思っていないし、葵が嫌じゃないなら俺に護衛を任せてくれないか?」


「……お、お願いします…」


優しく、温かい、強い眼差しのままそう言われ思わずそう言った。
僕の返事を聞いて嬉しそうに笑った泉君に、「ありがとう」と「これからお世話になります」という意味も込めて微笑み返せば、少し目を見開いてもう一度笑顔を向けられる。


「本当は明日からだけど、今日もこれから部屋まで送るし、これからよろしくな」


「うん、こちらこそ」


二人で盛り上がっていた僕たちは、副委員長様が複雑な表情でこっちを見ていたことに気付かなかった。












((今日は私が桃園君を部屋まで送ろうと思っていたのに。…いや、泉を桃園君の護衛と決めたのは私ですが、明日からのはずですし。今日くらいは私が……))
――ガチャ
(戻りました。校内も安全でしたし葵も無事部屋まで送りまし……おい、副委員長どうしたんだ?)
(……お前たちが出ていってからずっとあんな感じだったぞ。泉が何かしたんじゃないか?)
(俺!?)


その日副委員長はずっとじめじめしたオーラを背中に背負ってました。by風紀委員一同















 
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