28.『壁外偵察計画』


『リヴァイ、お願いね』――

買い物を頼まれて、それくらいお安い御用と引き受けたのはいいが、

さて……これはどうしたものか―――














『あれ、リヴァイさん?……何してるんですか、そんな所で』



非番日。
ドラッグストアで偶然居合わせたエレンが、商品を決めあぐねて通路にしゃがみ込み熟考しているリヴァイを見つけ声を掛けた。
一瞬、面倒なヤツに出くわしたというような顰め面をしたが、観念したように小さく溜め息を漏らしてエレンに話し始めた。



『嫁から買ってくるよう頼まれたんだが、こんなに豊富な種類とメーカーがあるとは知らなくてな……どれにしたらいいのか分からず途方に暮れていた』

『紙オムツですか!うーん、僕も分からないなぁ。奥さんに電話して聞いてみたらどうですか?』

『もう電話するには遅い時間だからメールをしたんだが、返事が無い。恐らく寝てるんだろう』

『え、早くないですか?まだ夜の8時ですよ』

『確かに病院の消灯は夜9時30分だが、今は赤ん坊の生活リズムなんて無いみたいなものだから仕方ねぇだろ』

『病院?そういえば、この間赤ちゃん産まれたって言ってましたが、まだ奥さん退院されてなかったんですね』

『明日退院だ』



ぶっきらぼうに話しながらも幸せそうな上司に、エレンまで嬉しくなる。
そして、いい大人の男二人による"紙オムツ"の品定めが始まった。



『サイズは"新生児用"ですよね……この子グマのキャラクター柄はどうですか?!可愛い!』

『柄より機能性重視だろ。こっちの商品の方は"新製法さらさら加工"で、しかも今なら3枚増量中だ』

『あ、ここにあるトラのキャラクターも可愛いですよ!おしりにフィットで漏れにくい…………っていうかリヴァイさん、今度赤ちゃん見に行ってもいいですか?御祝いも渡したいし』

『仕方ねぇな……、生後1ヶ月越したらだぞ。あと嫁にも聞いておく』

『やった!じゃあ今日のオムツ、僕が買いますよ。この子グマちゃんのを!』

『俺より安月給が何言ってやがる』

『まぁまぁ、たまには僕の言うことも聞いてくださいよ。これ絶対可愛いですから!』















……「ったく、好きにしろ」……












「それではリヴァイ、配った資料の通りでいいな」

「……あ゙?」



目を手元に落とすと、"巨人生捕り作戦準備にかかる壁外偵察"という表題の資料が。

反論をするでもなく、頬杖をついてじっと聞いていると思っていたリヴァイが終盤に突然呟いた一言で、その場が一瞬止まった。


「今『好きにしろ』と言わなかったか?」

「……あぁ、これの通りなんだろ?問題ない、エルヴィン」

「では、これにて幹部会を終了する。来週の"壁外偵察"までに体調管理及び装備資機材を今一度管理徹底するように、以上」―――










自室に戻り、ベッドに腰掛けながら先程の資料を読み返す。

"壁外偵察"

公の壁外遠征とは異なり、エルヴィンが次回壁外調査で画策している巨人の捕獲作戦を綿密なものにするため、巨人が活動停止している夜に壁外へ出て様々な偵察をしに行くというものらしい。
所要期間としては長くても3日と短く、それも非公開で。
"壁外遠征"のための"壁外偵察"なんて過去に例がない。
エルヴィンがこの作戦に賭けているということの表れだろう。
何しろ内密なことだが、捕まえるヤツは普通の巨人ではないんだから。
失敗すれば資金も兵士も無駄に減らせるばかりか、調査兵団への風向きは更に悪くなるだろう。


資料の最後の方には、参加人員のリストがあった。
極秘で行う作戦であるから、普通の壁外遠征と比べると、かなり限られた幹部クラスのメンバーで行うことになっているのに、そこにはアサギの名前が。
ハンジ、モブリット、アサギの3人が一つの班になっている。
巨人との対戦経験が無いアサギが、一体どうして……しかも医務班だと?!どういうことだ。

エルヴィンの野郎、アサギの何を知っていやがる――――





アサギに触れたあの夜から……

寝ても覚めても、気がつけばあいつの事ばかり考えている

どちらが夢か、現実か、分からなくなるほど鮮明で妙な夢をよく見るようにもなった


あの"世界"は一体何だ

"嫁"とは誰だ


―――お前は、それが何か知っているのか?アサギ――――


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