5.報われた選択*


今、何時かしら―――




薄っすら外が明るい。
重い瞼を開け、見慣れない部屋の景色を今だ微睡みぼやける眼で見て、リヴァイの寝室で迎えた初めての朝だと認識する。
身体が、全身痛い――ちらりと横を見遣ればその原因を作った張本人が、昨晩見せた野獣の一面がまるで嘘のように穏やかな顔で眠っている。

あの"意地悪リヴァイ"と、まさか再会して付き合って、SEXしちゃうなんて……あの頃の私が聞いたら、きっと卒倒するわね。

"SEX "って言葉を自分の頭の中で使っただけで、昨晩彼から激しく愛されたことが容易に思い出されて身体が火照る。
久々の営みで、しかも何度もしたことで少し痛む秘部が、不可抗力にもじわりと潤っていくのが分かり、これでは自分がはしたない女のようだと否定的な自分が窘め、痛む身体を捩らせリヴァイに背を向けた。
すると透かさず後ろから距離を詰め、抱きしめられる。



「―――おはよう、アサギ」



アサギの白いうなじに優しく唇を寄せながら言うその声は、聞いたことのない少し掠れたような低い声でドキリとした。



「おはよ……ごめん、起こしちゃった?あれ私、声……」



喋ってみて初めて自分の声の方がおかしいことに気が付き、喉を擦る。
腹部に回されたリヴァイの腕にぐっと力がこもり、素肌のアサギの背中とリヴァイの前面がぴったりとくっつき温かくて気持ちいい。



「少し前から起きていた。……こんなに満たされる朝なんて、あるんだな。身体は大丈夫か?」

「ん、大丈夫。全身が、あちこち痛いだけ」

「悪ぃ、かなり無理させちまった。あれだけヤりゃあ声も枯れるだろうな。―――だが、俺はまだ足りてねえんだが」



そう言いながら、"諸事情"により遠慮して少し離していた腰をアサギの柔らかな尻にわざとらしく密着させる。
リヴァイからアサギの表情こそ見えないが、みるみる真っ赤に染まりゆく耳を見て、それが手に取るように分かった。



「や、やだ……絶倫」

「安心しろ、健康な男の生理現象だ。まあ『足りてねえ』ってのは間違いねぇが、お前に無理させてまでヤろうとは思わねぇよ。それに今はお前とこうしてるだけで十分だ……」



良い匂いだ、と優しく指をすき入れて柔らかな髪の毛に顔を埋めてくるリヴァイの甘い言動に、頭がクラクラして堪らず彼の方に向き直った。



「アサギ……」



待っていたとばかりに二つの唇が重なる。
唇を啄む柔い感触と、リップ音が相乗効果となって二人の情欲を煽り、もう今はしないと決めていたにも関わらず、そんな雰囲気に自然となってきてしまう。

リヴァイにとって、こんな至福の時間は初めての体験だった。
別に女に困っていたという訳ではない。
来るもの拒まずでテキトーに女を作っていたが、元々アサギが初恋で始まっていたから、無意識に記憶の中のアサギのような面影がある女ばかりを選んでいた。
だから、SEXの相性や心の繋がりを求めることは無かった。
その理由は簡単―――それがアサギではないから。
故に毎回必然と長続きはしないし、誰かと居て得られる幸福感なんてものに無縁だった。
相手に対して執着心などないから、そこから生まれる嫉妬もなければ喧嘩もなかった。



「やべえな。好いた女とヤるってことが、こんなに凄えことなんて知らなかった」

「ど、どゆこと?」

「今がずっと続けばいいと思うほど、幸せってことだ」

「リヴァイ……。何度も言うけど、ほんとに人が変わったみたい、昔はあんなに意地悪だったのに」

「10年もお前を追い続けてたんだぞ。やっと手に入れたのにわざわざ遠ざけるような真似する子供じゃねえよ。それに、もうあの頃の俺とは違う。お前への気持ちだけは変わらねえが――いや、もっと強いものになってるがな」



ぎゅうと抱き締めると、苦しいとアサギが照れ隠しに言ってくる、それすらも愛しい。



「ねぇ、一つ聞いていい?……女から聞くっていうのも変かもしれないけど」

「何だ」

「どうしてそんなに想ってくれてるのに、私を直ぐに抱こうとしなかったの?」



自分の胸の中から恥ずかしそうに上目遣いで聞いてくるアサギに、苦しさを覚える程の動悸がした。



「お前……俺を殺す気か」

「え?」

「――まぁいい。それはだな、単に自分への戒めだ。これまで女なんて大事にしたいなど思ったことがなかった。自分の欲に対して都合のいい道具としか思ってなかったんだ。だがアサギは違う。だから今までと同じように自分の欲望赴くまま抱くのが嫌だった。お前だけは……」

「そうだったのね……でも私、それを知らなかったから少し不安だったのよ?私には色気が無いんじゃないかとか、色々考えたわ」

「すまない。あと、昨日が俺にとって特別な日だったんだ」

「特別な、日?」

「お前がこっちで就職してるってのを聞いて、俺がこっちに越してきた日だ」

「そんなこと覚えてたの?」

「区切りのいい日だったから無意識に覚えていたというだけの話だか。当時アサギと逢いたいという想いだけで行動したが、本当に逢えるなんて思ってもいなかった……それでもあの日の俺の選択は今日に繋がっていた。お前に逢いたいと思いながらしたこと全てがやっと報われたんだ。しかし、俺の勝手な都合に振り回して悪かったな、アサギ」



目を涙で潤ませて、ううんと首を横に振りながら再びリヴァイの胸に顔を埋めるアサギを優しくリヴァイが包み込む。








「明るくなってきたわね。コーヒーでも淹れようか?」

「まだいい。もう少し、お前とこのままでいたい」










遠回りしてようやく出会えた二本の糸は

絡まり、一本の強い糸を紡ぎ始めた

これからはアナタと一緒に―――



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