10.place of arrival is "you"* 「これがお前のアパートメントか。家族世帯向けだろ、一人で住むには広いんじゃねえか?」 「うん、私のおばあちゃんが大家してる物件でね、ちょうど空きがあったから借りたの。広いけど家賃は郊外だから格安なのよ」 「……そういやお前んち金持ちだったな。ガレージあるじゃねえか。メトロで通勤してるんだったら、車持ってねえんだろ。どれがお前んちだ」 「あ、うん……その一番端よ。……って、リヴァイ、うちに上っていく気……?」 アパートメント一階部分のガレージ前に一旦停車し、体を後ろに捻って右腕を助手席に回すと、後進のブザー音の鳴る中、少し距離の近くなったリヴァイの顔が覗き込んできた。 「このタイプのアパートメントは一番端のが玄関2階だろ。足怪我してるお前を介添えしてる間に駐禁切符くらいたくねぇからな。」 「……そうね、面倒かけて、ごめん……」 「まぁ……それを口実に、お前ともう少し一緒に居たいのもある。」 「あの……、それは嬉しいし、私も同じ気持ちなんですけど……部屋散らかってるんですよ、リヴァイさん……だから、」 「少しなら我慢してやる。着いたぞ、そっち行くからそのまま待ってろ。」 掃除とか、嫌いではないんだけど、最近は仕事の帰りも遅くて家の中のこと、あまりちゃんとできてなかったからなぁ…… 昔のように清潔好きの彼なら、今の状態で部屋に入っちゃうと怒るかもしれない。 先週末、友人が訪ねて来た時に少し片付けてたのが不幸中の幸いだけど…。 胸中穏やかではないアサギを素知らぬ顔であしらうと、リヴァイは再び彼女を抱き抱えて玄関へ続く階段を上っていった。 玄関前で下り、鍵を開けて玄関ドアを開きながらアサギはリヴァイに靴を脱ぐようにと促す。 「泥とか雪が家の中に落ちてドロドロになるのが嫌なの」 「ああ。俺の家も土足厳禁にしている、問題無い。」 肩を貸してもらってリビングに入ると、部屋の照明スイッチを押すと同時にリヴァイの反応を窺った。 「お前が気にする程散らかってねえじゃねぇか、そこのソファに座っとけ。救急箱はあるか?あとエアコンのリモコンはどこだ、寒過ぎる」 「え?あ、薬箱はあの棚の上……。エアコンのはここにあるわ。」 てっきり『酷ぇ散らかりようだな』などと言われるもんだと思って身構えていたが、案外大丈夫なようで胸を撫で下ろす。 とりあえずコートを脱いで横に置き、暖房をつけているとリヴァイが薬箱を持って来てアサギの前で床に跪いた。 「まだ傷は痛むか?」 「時間が経ってるから麻痺してるわ。」 「手当てすんのに邪魔なそのストッキングを脱げ」 「え?……えと、……後ろ向いててくれる?」 若干不満そうに小さく舌打ちをしながらも素直に後ろを向いてくれたその隙に、パパっと脱いでスカートを整えた。 「脱いだわよ。」 「どうせ破れちまってんだから、俺が破り捨てて脱がせても良かったんだがな。消毒するぞ。」 「何言ってんのよ、もう!」 からかいながらアサギの足に優しく触れると片手で固定し、擦り剥いて赤黒く血が固まっている箇所に消毒液をかけた。 すると、予想通り消毒液が染みる痛みで小さな悲鳴と共にアサギの体が跳ねた。 「あぁ……!」 「……おい、妙な声出すんじゃねえ……」 「え?!違ッ、痛いの……ッ!」 薬を塗って仕上げに大きめの絆創膏を貼り終えると、リヴァイはアサギの方に視線を切り換え、手当てしていた膝を素早く割って身体を滑り込ませてきた。 ずり上がってくるスカートを必死に片手で押さえるも無駄な抵抗で……そのままソファに押し倒された。 「この怪我、お前が男に襲われたんじゃなくて本当に良かった………見た時は少し焦ったんだぞ」 「リヴァイ……」 「だが、ただ転んだだけだと分かってからは……破れたストッキングと、裂けたスカートのスリットがどれだけ俺を誘惑してたか……分かるか?アサギよ…」 首筋に顔を埋め唇を寄せると、アサギから甘い吐息が零れリヴァイの耳を侵食していく。 面白いくらいに紅潮して熱くなった彼女の耳を弄りながら、潤んだ瞳に視線を絡ませる。 「お前……真っ赤だぞ。まさか経験が無ぇとか言うんじゃ……」 「んと…、その、無いワケじゃないけど……大学時代に付き合ってた最初の彼しか知らなくて……」 「クソ、自分で話振っといて何か腹立つな。お前も馬鹿正直に答えるんじゃねぇ。……詐欺野郎とヤッてねえのは本当だろうな…」 「誓って本当よ」 「ムカつきついでにもう一つ聞くが、お前のファーストキスはいつだ」 「大学の時にその最初の彼と……、って、もう……何探ってるのよ!じゃあ自分はいつなのよ?!」 「中学ん時……、アサギとだ」 「……は?何の冗談……」 「プロムの後、ふざけた野郎共が本物のシャンパンを会場の飲み物に紛れ込ませてたのを、お前飲んで酔っ払ってホールの隅で寝てただろ。俺以外の男とお前が組んでやがったのに苛立ってたのもあって、寝てるお前にしてやった。」 「……そんな……、じゃ、お互いにファーストキスは……」 「そういうことだ……」 これ以上は言葉は要らないとばかりに、互いの唇を塞ぎ合う。 角度を変える度、部屋に響くリップ音と漏れる熱い吐息が二人の感情を昂らせていく。 リヴァイが僅かな隙間から舌を侵入させると、アサギは驚き小さく喘ぐもそれを受け入れ懸命に応える。 服の裾をスカートのウエストから引っ張り出し、一体何枚着てんだよと文句を言いながら絹のように滑らかな素肌にすっかり温かくなった手を滑り込ませ、下着の上から小振りで形の良い胸をその手で包み込む。 「多少大きくはなったが、あまり昔とサイズが変わらねえな。しかし……悪くない」 「悪かったわね、小さくて……ッあん!」 下着をずらして直に揉み拉きながら、指の間に頂を挟んで摘まみ上げてきてた。 自分の口から出てきた声に驚いて、咄嗟に口を手で覆うがリヴァイにその手を取られ彼の胸元に導かれる。 「声……我慢すんな。ツラいならここ掴んどけ。お前なぁ、いちいちウブな反応してんじゃねえぞ、……突き壊したくなるじゃねえか。もしかしてわざと俺を煽ってんのか?」 「違ッ……ぅん、あぁッ!そこ、ダメ……!」 「ここは……十分すぎるくらい準備出来てんな……」 リヴァイはショーツ越しにアサギの秘部を割れ目に沿ってなぞってきた。 強い刺激に堪えきれず身体を捩らせるがリヴァイに覆い被さられている為、逃げられない。 蕾を探り当て執拗にそこを攻め立てると、艶のある嬌声をあげ高みへと追い詰めてられていくアサギ…… 快楽の淵に落ちそうになったその時、アサギを嬲っていた手を引き、代わりに衣服の上からも分かるくらいに主張している自身を着衣のまま蜜壷に宛がい、グッと押し付けてきた。 「…はぁ……、このまま最後までシてえのは山々なんだが……今日はここまでだ。まだガキ無しで“二人”を楽しみてぇからな……」 急に放り出され、上気して荒い息のまま放心しているアサギの頭を労うように優しく撫でながら、『急でアレ持ってねぇからな』とバツが悪そうに言って身体を起こすリヴァイ。 「それに……もし今お前を抱いたら、このまま朝まで帰れなくなっちまう。車……“バイト先”に返しに行かねぇと。」 「あ、そ……そういえば……リヴァイ、まだ仕事中だったわね……送るわ。」 「馬鹿か、安静にしてろ。手当てした意味が無くなるだろうが。………家も分かったことだし、また改めてここに来る。何かあれば携帯にかけてこい。」 「うん……」 乱れた服を直しているアサギの唇にキスを落とし、名残惜しそうにチュッと音を立てて離れると、胸ポケットからメモ帳を取り出して携帯番号を書き、ページを破って机に置いた。 そして、おやすみという言葉を残してそのままリビングを出て行った。 リヴァイが玄関ドアを閉め出て行く音が聞こえると、急にいつものシンとした部屋に戻り、寂しさが込み上げる。 でも、その“寂しさ”は昨日までの“孤独”とは全く違うもので…… まだ見ぬ彼との明日を想うと、年甲斐も無く恋愛初心の少女のように胸がときめく。 ――…メリークリスマス、 誕生日おめでとう…… それと、 これから宜しくね……リヴァイ――― 捻挫した足を引き摺って通りの見える窓際に行き、タクシーのテールランプが遠ざかっていくのを見送りながら独りごちた。 |