08
「さすがにそこに飲みに行けねェってんで、今日はこっちに遊びに来たぜ」
「そりゃウチとしては有難ェな! なァ、◆!」
 調子良く店主がカウンターを振り返ったので、◆は肩をすくめつつも頷いた。
「でもよ、海賊は普通、港に船をつけたりしねェだろ? ウチの前の砂浜とか、岩影とかに停泊させるのが多いから、それですぐ気付くんだがなァ。この店は港の方が見えねェもんで……」
 店主と客たちの会話を聞きながら、◆はジョッキに酒を注ぎ、盆に乗せていく。
「キッド海賊団って云えば、新聞を賑わす億超えルーキーだろ? その中でも最高額なのが3億1500万ベリーのユースタス・“キャプテン”キッドってな!」
 客の一人が、腰に差していた新聞を取り出して広げ、得意げに記事を指差す。
「ほらほら、ここだ……“キャプテン・キッドの方を見て笑っただけで、その通り一帯は壊滅状態となった”だってよ!」
「先週の新聞にも載ってたぞ! なんでも酒が切れちまったからと店で暴れたらしい」
「そりゃァ……! 大損害だろうなァ……」
「…………」
 悪い話ばかりの海賊が島に来た――新聞を前に盛り上がってみた男たちだったが、現実味を帯びたのか絶句し、一様に青ざめてしまった。
 そんな異様なテーブル席に、ジョッキを運んできた◆は、新聞をチラリと見てみる。
「あ、この人! 変なマスクの人だ!」
「へっ!?」
 テキパキと酒を配り終えると、◆は空の盆を胸元に抱え、広げられていた新聞の写真を指差す。
 そこには【“殺戮武人”キラー 懸賞金1億6200万ベリー】と書かれていた。
「私、この人と少し喋ったよ」
「ホントかよ、◆ちゃん! 大丈夫だったか!? 何もされなかった!?」
 途端、ギョッと見開かれた客の目を見て、◆はクスクスと口に手を当てた。
「ログの説明と海軍はあんまり来ないよって話をしただけだよ。あと……“島を襲うつもりなのか”って聞いたら、一応船長さんにはそのつもりはないって。まあ、短気とは云ってたけどね」
 その言葉に、一同が「ホーッ」と息を吐いた。
「気を付けなよ、◆ちゃん。コイツは“殺戮武人”だぞ?」
 ◆はカウンター内へ戻り、冷蔵庫を開いてチーズを取り出す。
「ありがと! まあ、変なマスク被ってたけど、危害は無さそうに見えたよ?」
 チーズをカットしながら笑顔で答えれば、店主は再び溜め息を吐いた。
「全く……お前は警戒心ってもんが無ェんだからなァ。この大海賊時代、何が起こるか分からねェんだぞ」
「注意はしておきまーす。でも、ログを貯める10日間、この小さな島だからどうしても顔は合わせると思うよ? 中心部の酒場にたむろするのなら、頻繁には会わないかもしれないけど。あ、それかウチに来る可能性も……」
 盛り付けたチーズを◆がテーブルへ運ぶと、店主は口癖なのか、再び「げっ」と声を上げた。
「そうだった! しかしこんな狭い店に来るかね? いやいや、とりあえず酒をなるたけ多く仕入れておこう!」
 そう云って、カウンターに置いてあった仕入れリストを引っ張り出し、ヒゲジジイは電卓と睨めっこし始める。

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