06
 そうキラーは思い直し、少し俯いていた顔を上げる。すると、通りを降りたところにキッドが先ほど云っていた、白い砂浜があった。
 港には大小様々な漁船が泊められていたように見えたが、そこには何もない。ただ、自然の岩や木々が岩壁を支えるようにして存在しており、あまり広くはない砂浜は、本当にただの砂浜だった。
「……」
 逡巡したが、夏島の陽射しを砂浜で浴び続けるのは、サウスブルー出身のキラーでも躊躇うものがあった。それに”殺戮武人”と二つ名を持つ自分が、砂浜で人魚を待って佇んでいるのもどうかと思い、一度止めた足を通りの先へ向けた。
「――?」
 と、視界の端に何かが映った気がして、再び足を止める。
 視線を向けた浅瀬には、見覚えのある小舟が浮いていた。
「よ、いしょ……っと」
 そして、その小舟を押して砂浜に上げていたのは人魚――ではなく、白い水着姿の、これも見覚えのある娘だった。
(足が……ある)
 人魚ではなかったのか、とキラーがなんとも云えない気分でその場に立ち尽くしている間に、娘は舟を砂浜の脇に上げ終えていた。
 そしてタオルを取り、髪を拭いたりしながら通りの方へ向かってきた。
「……あ」
 そこで初めて、娘はキラーの存在に気が付いたようだった。
 驚くことも、怖がることもなく、キラーが感じた”澄んだ瞳”を少しだけ見開いて、足を止めた。
「さっきの、海賊船の人?」
 その声も澄んでいた。
「……ああ」
 キラーが頷くと、娘はフーン、と数回瞬きをした。
「島を襲うつもりなの?」
 タオルで髪を拭きながら、その瞳はこちらを射抜いたままだ。
 キラーの頭の中は冷静で、しかし上手く言葉が出てこない自分に混乱する。
「いや……船長はそのつもりはないと思うが……何せ、短気だからな」
「そう? 出来ればケンカはやめて欲しいな。騒ぐくらいなら構わないんだけどね」
 島が潤うしねえ、と云いながら、娘はこちらへ歩いてくる。海面と船の上で互いを認めた時よりずっと、距離が近くなる。
「…………」
 キラーの前に立った娘は、彼の頭一つ分以上も背が低かった。
 島の近海と似た色を持つ瞳で、ジッと見上げられ、キラーは思わずたじろいだ。マスクを付けていなくても、無表情には変わりなかったと思うが、なんだか居心地が悪い。
「海賊団の名前は? 有名な人たちだったらごめんなさい。あんまり知らないから」
「……キッド海賊団、だ」
 娘はタオルを肩に掛けると、首を傾げた。
「ふうん? あとでダンナさんに聞いてみよ……あ、ログは10日間ね。夏島の春の季節にようこそ」
 ふふ、と微笑む。

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