04
 海に潜っている時に向かってくる船に気付かないままで居れば、確実に事故になる。
 ◆は長年の感覚で、海中ならば潜っていようが目をつぶっていようが、どの方向からどれくらいのモノが向かって来るのか、ある程度判るようになっていた。
 その感覚において視線をやった方向には、大型船の船底が見えた。
(勝った方の船……かな?)
 見回せば、自分の小舟から下ろした錨が背後にあったので、そこまで泳いでいき、小舟の脇にゆっくりと顔を出した。
「っぷは……あ、やっぱり海賊船だったのね」
 ◆が顔を出したところは、海賊船から五メートルも離れていない場所だった。
 ちょうど船が横切っていく時で、小舟は海賊船の作る波に煽られ、遊ばれるように揺れた。
「……素行が良くなさそうな船ね……なんて云う海賊団だろ」
 大きな帆に描かれたドクロを見上げれば、船はところどころ壊れ、白い帆は赤く染まっており、船体に矢やナイフが刺さっているのが見えた。
 やはり、先ほど沖で盛り上がっていた船たちの一つらしい。横切る船の後ろには、白波が作られては消えてゆくだけだったので、この船以外の海賊団が敗北したのだと思えた。
(島に害のある海賊団でなければいいけど……)
 ぼんやりとそんなことを思いながら、海賊船が通り過ぎるのを待っていると、左舷の船縁に人影が揺らいだ。◆の視線は自然とそちらへ移る。
(しましま……?)
 船縁から姿を現したのは、青と白のマスクを被り、まとめるのが苦労しそうな長い金髪を潮風になびかせている男――だと思われる――だった。
 首から上をすっぽり覆うマスクのせいで、顔は丸っきり見えないが、マスクの男はこちらへ気付いたのか、海面を覗き込むように少し身を乗り出した。
(見えてるのかな……あれ……)
 マスクには穴のようなものが見えたが、勿論目は見えない。
 そして一瞬近付いた二人は、通り過ぎる船が距離を作り、離れ、そして男の姿は見えなくなった。
「……何あれ……変なの」
 素直な感想と共に首を傾げつつ、◆は小舟へ乗り込む。
 錨を上げ、オールを持つと、海賊船を追いかけるように、島へ向かって漕ぎ出すのだった。



 海を前進し続けていたヴィクトリアパンク号は、魚人の艦隊との戦闘を終え、ようやく島へ到着した。
 入江などに船を隠すことを好まないキッドの指示により、船は堂々と島の港へ着岸された。
 投錨、帆をたたむセイルドリル、ボラードへロープを渡し――と、様々な作業を終えたクルーが上陸チームと船番チームに分かれる。
 船番チームは船大工の手伝いへ、上陸チームは船を下りる準備に移る。
 キラーが見当たらないので、かなり大雑把に指示を出したキッドは縄梯子をつたい、港の桟橋へ降り立った。
「あァ? “人魚”が居ただ?」
 つまらなそうな島だなと辺りを見回していたが、いつの間に船から下りてきたのか、キラーが桟橋に立っていた。そして彼が寄越した言葉に、キッドは面倒くさそうに聞き返す。

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