03
「ち、ちなみにお幾らぐらいですか……?」
 スモーカーの後ろへ流れる葉巻の煙に巻かれながら、◆は恐る恐る訊ねてみる。
「さァ……どうだろうな。お前がいつも行くとこの一番高いメシを頼んで、やっとスープくれェじゃねェか?」
 特に高級料理が食べたくて店を選ぶわけでもないし、好みの味付けなら安い食堂でもスモーカーは躊躇しない。ただ、値段はいつも気にせず、食べたいものや気になったものを注文しているので、最近行っている店の相場を思い出せないのだ。
 本部の敷地内を出て、一瞬だけ肩越しに◆を見てみれば、ブツブツと呟き、難しい顔をしている。
「何やってんだ?」
「あ、気になさらないで下さい。ただの計算です」
 へへっと笑った◆は、指を折り、「あれとこれで幾ら……うーん」と続ける。
 何の計算かすぐに察しがついたスモーカーは溜め息を吐く。
「嫌ならついてくるんじゃねェ。一人でメシ食いに行け」
「そんな、嫌だなんて云ってないですよ! 私、スープが大好物なんです!」
 ◆はニコニコと笑って、小走りでスモーカーの隣に並んだ。
「そりゃ良かったな」
 心にも思っていない言葉を、声色に滲ませて云ってやっても、◆は嬉しそうに笑っているだけで、スモーカーは十手を背負い直しながら、呆れた様子で首を振るのだった。



「美味しかったですねー! さすがスモーカー大佐行きつけのお店です!」
 昼食を終え、本部への帰り道。◆は行きと同じくスモーカーの少し後ろをついていきながら、ニコニコと笑みを浮かべて云った。
 スモーカーも行きと同じに、◆の歩幅を気にせずズカズカと歩いて行く。
「……本当にスープだけ頼みやがるとはな」
 葉巻を揺らしながら、スモーカーは鼻で笑う。
 本来ならば、上司として後輩に奢ってやるべきなのかもしれないが、スモーカーはそんな事を構う男ではなく、直属の部下でもない◆と別会計で昼食を済ませたのだった。
「そういえば、大佐。さっき、あんなとこで何されてたんですか?」
 高級ランチを奢って貰えず、けれどそんな事を特に気にもせず、◆はスモーカーに訊ねた。
「あ? いつの話だ」
「大佐を昼食にお誘いする前です。軍艦の下でぼんやりされてませんでした?」
 ヒナも云っていたのだ、「何だか軍艦を眺めていたわ。ヒナ、不明」と。
「もしかして、軍艦おたくなんですか? 軍艦を眺めているだけで癒されるとか、旧型の軍艦と比較されているとか!」
 確かに最近の軍艦はオシャレですよね! と話し出す◆に、スモーカーは面倒臭そうに顔をしかめた。
「うるせェな……別に好きでも何でもねェ。それより、何故おれの居場所が分かった」
 ◆がスモーカーを昼食の度に誘いに来たり、追いかけたりするのは今に始まった事ではない。が、毎回スモーカーを掴まえる事が出来ている訳でもない。
 スモーカーが◆から逃げると云う事は無いのだが、広い海軍本部内で、普段から自由に動き回る――しかも煙である――スモーカーを見つけるのは、召集を掛けない限り難しいのである。
 なので、今日は何故見つかったのかと少し疑問に思っていたのだ。

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