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 そう云うと、これから元帥に報告に行くから、とヒナは廊下を歩いて行った。
「ありがとうございます、ヒナ大佐!」
 若い海兵はその背中へ勢い良く頭を下げ、そのままギュンッと玄関へ走る。
 すれ違う中将や大佐達に礼儀正しく敬礼しつつ、逸る気持ちで波止場へ向かうと、大きな軍艦の下に佇んでいるお目当ての人物を見つけた。
「ハァ……ハァ、ッスモーカー大佐!」
 息切れを抑え、声を掛けると、葉巻を二本咥えたスモーカーが振り向く。
「あ……? お前、何しに来た」
 スモーカーの隣へと辿り着き、乱れた前髪を直しながら女海兵はエヘヘ、と笑う。
「もうすぐお昼休憩の時間なので、お迎えにあがりました!」
「誰が迎えに来いっつった」
 軍艦を見上げるスモーカーが不機嫌そうに返すが、彼女はまるで気にならないようで、ポケットからゴソゴソと紙を取り出した。
「大佐、最近食堂にいらっしゃいませんけど、外に食べに行かれてますよね? で、美味しいランチのお店のサービス券をゲットしたんですよ! 良かったら行きません?」
 チラ、と軍艦から海兵の握る紙を見ると「ライスおかわりし放題!」やら「デザート3つまでタダ!」やら、色々書いてある。
 ランチはもともと安いし、海兵達の住む街なので割引もされている。それでも給料の安い平海兵はサービス券やおまけなどに目が無い。
 しかし、海軍本部の大佐であるスモーカーに“安くなるもの”は興味が無く、更には“違う事”に顔をしかめた。
「お前……青キジの“秘書”だろう。仕事放っぽってきやがって」
 ――そう。
 彼女こそが、本来ならば今頃、クザンの執務室で書類を片付けている筈の海兵――◆だ。
 ◆はランチのサービス券を仕舞い、代わりにポケットにねじ込んでいたキャップを手に取った。
「誤解です、大佐! 自分の分の仕事は終えてきてますよ? それに違うって云ってるじゃないですか……私は秘書じゃありません、クザン大将の部下なだけです」
 見ての通り、ただの海兵です! と、◆は“MARINE”と刺繍のある白いキャップを被る。制服の胸元では青いスカーフが通常の海兵とは違い、女性らしくふんわりと結ってあった。
「青キジの“秘書”やってて、給料が“ただの海兵”じゃ、割に合わねェな」
 煙を吐きながら、スモーカーは鼻で笑ってやる。
 この◆――歳は若く、本部の中では皆に妹のように思われている。また、階級は無いに等しいが、青キジに目を掛けられており、その仕事の任されっぷりで“秘書”と呼ばれていた。
「だから秘書じゃないですってば……私はスモーカー大佐とお昼が食べたいんです!」
 ◆が熱く訴えると、スモーカーは再び溜め息を吐く。
「……ったく……」
 そして、軍艦の下から町の方へと歩き出した。
「云っとくが、その券が使える店には行かねェからな」
 そう云ってやれば、◆は「エッ」と目を丸くした。
「もしかして、高級ランチ奢って下さるんですか!?」
「バカ云ってんじゃねェ。自腹だぜ、海兵さんよ」
 スモーカーは後ろについてくる◆を気にせずにガツガツと歩く。後ろを振り向かずとも、慌ててついてくる◆の顔が青くなっているのは想像できる。

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