01
「クザン大将、ここのサイン抜けてます」
「ああ、ごめんごめん。……これでいい?」
「そうですね……あ、ここも抜けてます」
「かー! 面倒くさい!」
――ここは、海軍本部。
“だらけきった正義”を掲げ、だらだらと仕事をこなす大将青キジ――クザンの執務室である。
「ったく……何でこんなに書類があるのよ」
文句をたれつつ、積み上げられた書類に判子を捺していくクザンに、同じ部屋にいる部下達は心の内で「それはアンタがサボってるからだ」とツッコミを入れつつ、黙々と仕事をこなしている。
書類に目を通さないクザンの代わりに、サイン漏れなどがないか、本当に判子を捺していいものか確認している為、書類はなかなか片付かない。
それでも“未処理”の書類の山は崩れていき、ある程度“処理済”の書類が溜まったところで、クザンは仕分けしてあった各基地へのFAX書類を取り上げた。
「……じゃあ◆ちゃん、これFAXしといてね……ってありゃ、居ない?」
いつもならここで一言イヤミでも飛んでくるのだが、反応が無い為、書類から顔を上げる。
「◆ちゃん、さっきから居ないっすよ」
部下の一人が羽ペンをガリガリ動かしながら代わりに答える。
「もしかして……あの子、またアイツんとこ?」
「ええ。もうすぐお昼ですしね」
飽きないねえ、と笑う部下達に、クザンは手元の書類に途方に暮れつつ、溜め息を吐いた。
「スモーカー大佐ァー、ど―こでーすかー!?」
――その頃。
クザンの執務室がある棟とは離れた海軍本部の廊下を、若い女海兵が声を上げながら駆けていた。
その元気な声を聞いた海兵達は、互いにほんの少しの羨ましさを浮かべて笑い合い、そしてまた自分の仕事へと戻っていく。
若い女海兵は廊下をパタパタと走り、様々な部隊の部屋を覗いたり、渡り廊下の窓から海の方を眺めたりと何だか忙しそうだ。
「スモーカー大佐、何処に行かれたかな……」
「あら、またスモーカー君探し?」
いよいよ残すは男子トイレのみか、と廊下で悩んでいる若い海兵に声を掛けたのは、“黒檻のヒナ”と呼ばれている女将校だった。
「ヒナ大佐! お帰りなさいっ」
声をかけられた海兵はニコッと笑い、一礼する。その笑みは人好きするもので、ヒナもクールな表情を崩し、フフと笑った。
「ただいま。ヒナ、帰還」
彼女は海賊の拿捕の為、数日前から遠海に出ており、今しがたその任務を無事完了して帰還したところだった。
煙草を口の端に咥えたままフーッと煙を吐き、ヒナは少しくたびれた様子を見せながら黒い手袋を外す。
「ところでスモーカー君にならさっき会ったわ、港の方よ。わたくしの出迎えに来てくれたのかと思ったけれど有り得ないし……何だか軍艦を眺めていたわ。ヒナ、不明」
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