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しかし、◆の擦れた声でもエースは気付き、驚いた顔で振り向いた。
「おお、◆!? すげェいいところに……」
「何やってるのッ!? 海軍があなたに気付いたみたいで、今全力で探してる……早く海へ出ないと!」
傍に駆け寄った◆が一気に捲し立てるも、エースはただヘラッと笑うだけだった。
「イヤ、それが――」
その時、バタバタと荒々しい足音が聞こえ、二人は同時にその音の方へ顔を向けた。
「居たぞ! “火拳のエース”だ!!」
「!!!」
すぐそこに海軍達が迫って来ていた。
エースの仲間だと思われたら困るので、◆はとりあえず逃げようと辺りを見回す。が。
「え!!?」
ふいに体が浮いた。
「すまねェ、◆! ちょっと困ってんだ!」
「なッ!? ちょっ……何で私ッ!?」
エースは◆を片腕で担ぎ上げると、ヒョイッとストライカーに飛び乗った。ジタバタと暴れる◆をものともせずに、足元にメラメラの能力を発揮させると、グンッとストライカーは動き出し、瞬く間に沖へ出る。
「女を攫った模様!! 艦を出せェー!!」
慌てた海軍の怒号が響き、海岸のギリギリに立って発砲してくる者も居る。
「よせ、相手は“火”だ! それに“一般人”に当たったらどうする!!」
「とにかく船を出して全力で追え!!!」
そうして軍艦が動き出した頃、ストライカーは既に島からは見えなくなっていた。
「海に落ちたら助けられねェ、暴れねェでいてくれよ」
もう追手は来ないと判断したのか、エースはそう云うとスピードを落とした。能力を解除して足元の火を消すと、◆をそっと下ろし、帆を広げて帆船にする。
「……」
◆は云われた通りに大人しく帆の下に腰掛けた。一人用の船である故、狭いし不安定なので暴れる気も起きない。
「何で私がこんな目に……何なの一体!」
説明してよ、と立ったままのエースを睨むと、エースは困ったように後頭部をガリガリと掻いて、左腕を突き出してきた。
「――無ェんだ」
「……?」
突然の謎かけのような言葉に、◆は首を傾げる。
目の前には程良く筋肉のついた、男らしい腕があるだけだ。
「無くしちまったみてェだ」
「……何を?」
「この海で唯一、信じられる指針を……だ」
◆は目を見開く。
――“この海”で一番大事な物……!
「ログポース……!?」
エースは頷きながら苦笑いを浮かべると、右手と同じく左手もポケットにしまった。
「いくらおれでも、あれが無ェと“この海”は進めねェ。だからどうしようかと困ってたら、◆がちょうど良く現れるもんだからさ」
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