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 手早く宿を取り、シャワーを浴びて濡れた体を温めた二人は、ようやく酒場で腰を落ち着けた。
 凄まじい勢いで皿を綺麗にしていくエースと、淡々とビーフシチューを口に運ぶ◆は、大食いと物静かな男という、なんの変哲もない二人組に見えた。
 それは海軍兵士を警戒しての変装だったが、宿から街に出て歩く時も、全く海兵の姿を見かけることがなかった。もう夜とは云え、”厳重警戒”しているのではなかったのか? と、二人で拍子抜けしたほどである。
「――そういやァ、こないだまでやたらウロウロしてた海兵共は、どこ行っちまったんだ?」
 賑わう酒場で特に会話もなく食事を続けていたが、ふいに近くの席で酒を飲んでいた男たちの会話が耳に入ってきた。
「“火拳の件”でピリピリしてたのにな。新聞にも海軍の失態ってデカく載ってたしよ」
「なんだ知らねェのか? 一昨日くらいから基地は空っぽらしいぜ。朝のうちに軍艦が出港したって漁師の奴らが云ってたよ。召集でもあったのかねェ」
 その言葉に、◆とエースは顔を見合わせた。
「……少し気を抜いても良さそう」
「ん、だな!」
 それでも上半身は出さないでよ、とシャツを羽織っただけで肉を頬張るエースに釘を刺した。
 しばらくし、エースの追加注文がやっと収まった頃。
 ふと外が騒がしくなったと思えば、大柄で得物を下げた男たちが店に入り込んできた。
「邪魔するゥー!」
 粗暴の悪そうな、”いかにも”な男たちが好き勝手に席へ腰掛け、クロスボウを傍らに置いた男が「酒ェ!」と声を荒げるので、店員らは慌てて酒樽を転がしジョッキを並べ始める。
 先ほどまで楽しそうに話していた町民らも、そそくさと席を離れたり、会計をして店を出ていく。
「……“弩(おおゆみ)のマイン”、懸賞金8100万ベリー」
 “海賊潰し”の呟きに、エースはプッと吹き出した。
「さすがだな……“やる”のか?」
「“そっち”はお休みするって云ったでしょ。それに、今の“仕事”、結構気に入ってるから」
 ホットラムのマグを両手で包み、口をつけながら◆は静かに云った。
「…………」
 残りの酒を飲み干そうとしていたエースは、ジョッキを持ったまま、呆けたように固まってしまった。が、◆はその事には気付かずに、「美味しい」とラムを飲んでいく。
「…………」
 再び襲う、胸の奥の願望――話したい、話してしまいたい、もっと自分の事を知って欲しい!!
 汗をかいたジョッキを握り、ゴクリと唾を飲み込む。
「……なァ、◆――」
「いやァこの島ァ、海兵がうろちょろしてなくて歩きやすいったらねェなァ!」
 何も考えずに名を呼んだそれをかき消すように、やかましいテーブルから更にやかましい声が飛んできた。
「マインの頭、どうやらこの先の島へ、たいそうな軍艦が向かってるとかで。その対応に追われてるとかで。盗み聞きしたとかで」
 さすがに話は続けられない。むしろ自分は今何を云おうとしたのか? と、冷静さを何とか取り戻したエースは首を振り、ジョッキに口をつける。

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