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「…………そう……」
 ◆の短い相槌に、ハッと顔を上げる。
「変な話して悪ィ。あんまり人に話したこと無ェのに――」
「ううん」
 小首を傾げた◆が僅かに目を細めた。
「……海賊は嫌いだし、サボもルフィも会ったことないけど……あなたたちが海賊になりたいって思う気持ちが少しだけ解った気がする」
 だからか知れないけど、と◆は膝を抱えて火に向き直った。
「聞けて良かった、と思うの。今の話」
 その言葉に、その横顔に、エースは胸の奥を握り込まれたような――先程の熱とは違う、不思議な痛みを覚えた。
「……っ」
 こちらを向いて自分を見て欲しいのに、その名を呼びたいのに、息が詰まって声が出せなくなる。
 ◆は静かになったエースに構わず、小さくなってきた炎を見つめたままだ。
「盃を交わした兄弟か……自分には兄弟いないから、そういうの少し羨ましい」
 物心ついた時から母と二人暮らし。母が亡くなってからは一人で島を出て生きてきた◆にとって、家族や兄弟とは無縁で――。
 少しだけ寂しそうに話す◆に、エースはなんとか不思議な呪縛から逃れる。
「だったらよ、おれが◆の兄貴になるとか?」
 薪をくべ、自らの火を足してやりながらそう云えば、◆は思い切りエースを振り向いた。
「なんでエースが兄になるの!?」
「あははっ、すげェ嫌そうな顔だなァ!」
 驚きよりも、もろに嫌悪感をあらわにした表情が◆らしかった。
「エースが兄だなんて絶対嫌でしょ。今以上に迷惑たくさん掛けられそうだし」
 さも当たり前だと云わんばかりの◆は唇を尖らせつつ、傍らに置いてあった自分のリュックを引き寄せ、中から小さなブランケットを取り出す。
「酷ェ云われようだ」
 早くも寝る準備をしている様子に、エースは笑いながらも少しつまらない気分になった。今夜はもう暫く話していたかった気がしていた――
「ま、おれも◆のことを妹だなんて思えねェなァ。しっかりしてるし、強ェし……でも“姉貴”とも違ェ……なんて云うか、一人の女って――」
 その瞬間、自分の発した言葉に固まった。
「あ――! その、“女”ってそういう意味じゃねェ!」
 特に反応を示したわけではないのだが、一人で勝手に焦るエースに◆は怪訝そうに訊き返す。
「そういう意味って何」
「だ、だから普通の! あ!? 普通の女ッ!? 違ェ! おれは◆のことイイ女だと思ってるけど、イヤ、そうじゃなくて一人の……あー女性として的な!?」
 完全に墓穴を掘っている謎の言動に、◆は短くため息を吐いた。
「……もういいから……私、もう寝るから」
 呆れたように云うと、リュックを持って草の上に移動し、ブランケットを自身へ掛けた。

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