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盃を交わすと兄弟になれる――◆も聞いたことはある話だった。
つまり、三人は血を分けた兄弟ではないということだが、◆はそれは特に気にすることはなかった。白ひげも自分のクルーたちを“息子”と呼ぶし、海賊は“親子”や“兄弟”の契りを好むものだと知っている。
ふうん、と膝を抱えて相槌を打ち、エースがグビグビと酒を飲み干す様子をなんとなく眺めた。
「弟も海賊って云ってたけど、もしかして“サボ”もなの?」
ふと、なんの気なしにした質問だったが、その言葉にエースの動きが止まる。
「……?」
突然の沈黙に首を傾げた。
「……訊いちゃいけないことだった?」
気まずそうにする◆に、俯き気味だったエースは顔を上げ、ゆるく首を振った。
「イヤ、そうじゃねェ……すまねェ。ちょっと色々、思い出しちまっただけさ」
樽コップを傍らに置き、片膝を立てて頬杖をつく。空を仰げば火に照らされた星空がある。
「……――十年前だな、サボはおれたちより先に海へ出たんだ」
貴族の生まれにありながら、“ゴミ山”で鉄パイプを振るっていた彼のいたずらっぽく優しい笑顔を思い出す。
「ちょっと複雑な生まれの奴なんだが、おれも認める強さでさ。強くて頭が良くて……おれは結構勢いで動いちまうタイプだが、アイツは冷静で少し大人っぽくて……。そういうとこは悔しいけど羨ましかったんだよなァ」
パチンと焚き火が音を立て、エースは夜空から火に目を移す。
「サボはしんだんだ」
「……」
◆が一瞬目を見開いたのが分かって、それでも火を見つめ続ける。
「海に出てすぐ――天竜人の船を横切って銃で撃たれたんだってさ。おれは見てねェんだけど、その場に居た奴に聞いて……。最初は信じなかったけどな。信じたくなくてさ」
暴れる自分は木に縛り付けられて、ルフィはわんわん泣いていた。
国が、世界がサボを殺したとダダンは云った。
当時はよく解らなかったが、その存在は憎く、高町へ戻った彼の苦悩に気付けなかったことを、ただただ悔いた。
「しばらくして、おれに手紙が届いて……海に出る前のサボからだったんだ」
話しながら、エースは何故こんなことを◆に話しているのだろう? と思っていた。
“兄弟盃”の思い出など、ほとんど誰にも話したことがないというのに――。
「……手紙には先に海を出ることと、ルフィを頼むってあってさ……。将来は三人とも海賊になる夢があったんだが、残ったおれたちがなってみせようって。海に出て誰よりも自由に、“くい”のないように生きようって決めたんだ……!」
ここに至るまで数々の死線を乗り越えて生き抜いてきたが、十年前のあの頃の記憶は“自分”を形成する上で、最も重要で――大切なものだった。
それを少しでも◆に知って欲しくて、“自分”を知って欲しくて。けれど、それは何故か解らないままエースは話を終えていた。
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