66
「……どうしたの?」
 食べかけの肉を持ったまま、ぼんやりと火を見つめているエースを不思議に思ったのか、◆が静かに声を掛ける。
「ん、おう。すまねェ、少し考え事してた」
「寝落ちじゃなくて? 珍しい」
 自分は既に食べ終えたのか、傍らには酒の樽コップだけの◆は肩をすくめた。
 ゆらゆらと揺れる炎に照らされる◆の横顔に、同じく影が出来て動き、その瞳も揺らめいて見える。自分の分身のような“火”が彼女の滑らかそうな肌に這っていくような錯覚。エースは腹の奥に疼く熱を感じた。
「っ、……◆……」
 瞬間、エースはしまった! と顔を引き攣らせる――何故なら、思わず漏れてしまったその声が非常に“欲”を纏っていたからだ。
「なに?」
 そうとも気付かず、◆は酒を一口飲んで応える。
「あ――と、その……」
 こちらを見ないでいてくれて良かった、と感謝しつつ、言葉の続きに急いで頭を巡らせた。
「そ……っそういえばさ、歳! 訊いてなかったよな!?」
「歳?」
 再び、しまった! とエースは自分を殴りたくなった。レディに歳を訊くのはヤボってもんよ、とサッチが云っていたことを思い出したのだ。
「いきなり何かと思ったら……私、ハタチだけど」
 それが? と淡々と答えた◆にエースは面食らった。が、気付く。
「じゃァ、おれたち同い年なんだな!」
 やっぱりな! と嬉しくなって一人で盛り上がれば、先程のおかしな焦燥感はどこかへ行ってしまった。
「ふうん、エースもハタチなの」
 まあ妥当ね――という呟きは良い評価なのか逆なのか、とりあえず嬉しいのでエースは聞かなかったことにし、大きく頷いた。
 そしてふと、青い外套を羽織った彼を思い出す。
「て、ことはサボとも同じ歳か……」
「サボ? 弟がいるって話してた時に聞いた名前ね」
 ◆が海賊――串刺しのハルバード――によって脚に重症を負い、病院に行った帰り道。エースにおぶわれながら「よく怪我する弟がいた」と聞かされた際に、ポロッとこぼされた名前だった。
「よく覚えてんなァ、なんか嬉しいな」
 照れくさそうに笑い、エースは残りの肉を平らげてしまう。
「悪童三人組ってさ、よく呼ばれてたよ。おれとサボが二人で長男で、ルフィが弟……おれたちは盃を交わした兄弟なんだ」

- 66 -




←zzz
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -