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「おい、あの話聞いたか?」
「あの話ィ?」
 ここはグランドライン後半の海。
 穏やかに波間にたゆたう大きな海賊船が一隻。
「ほら、エース隊長のヤツさ」
「ハハ! 聞いたも何も、ここ何週間もその話題でもちきりじゃねェか!」
 朝から上甲板掃除真っ最中の男が数名、モップを動かしながら何やら盛り上がっていた。
「隊長の見出しの新聞、集めてるヤツ居るらしいぜ」
「回し読みした後のなんてヨレヨレなのにな、その晩は争奪戦なんだとよ。二番隊の部屋は特にヤバイってさ」
「気持ちは解る。おれもジョズ隊長のやつは欲しいもんよ」
 ケラケラ笑いながら、それでもモップはしっかりと甲板の汚れを拭っていく。
「エース隊長、カッコいいよな〜! あんなでっけェ基地に乗り込んで重要書類奪っちまうんだから」
「し・か・も! 女を連れて!」
「ふはは! 昔、故郷の劇場で観たことある、そんなスパイ劇!」
 更に盛り上がって行く彼らだったが、朝食の香りが漂ってきたことを受け、急いで仕事を終わらせようと方々に散って行った。
 そんな彼らをいつから眺めていたのか、フォアデッキに佇んでいたマルコは、眠たそうな瞼を少し上げ、“その音”に体を起こした。
「おー、ご苦労さん。ウチは部数が多くて申し訳ねェよい」
 朝の少し冷えた風を受けつつ欄干に止まったニュース・クーから、朝刊を数部受け取り、代金を赤い鞄に入れる。
 満足そうに「クー」と鳴いたカモメは、再び潮風にタレをなびかせて水平線へ飛び立って行った。
 さて、と新聞を広げるマルコの後ろのドアが開く。
 首のスカーフを巻きながら出てきたサッチは、本物の眠たい瞼を上げて「おはよーさん」と呻いた。
 でかい欠伸をしている彼は意に介さず、黙々とマルコは新聞に目を通す。
「やれやれ……エースのヤツ、おれに自分の隊任せて女と遊んでやがるよい」
 新聞の見出しには『海軍またもやられる! 重要機密書類奪われ』と出ている――数週間前もこんな記事だったような、と思わず発行日に目をやった。
「いいなァ、エース。おれが行けば良かったぜ」
 サッチが新聞を覗き込めば『白ひげ海賊団二番隊隊長、ポートガス・D・エースが海軍基地へ侵入。共犯と思われる女を連れてバリケードを破る』とあった。

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