57
「……そうか……」
 ◆はエースから逃げはしない。ならば、追われる者同士で協力する方がいい。◆の敵は海軍も含まれる――その理由は既に彼女の口から語られている。
 エースは姿勢を戻して帽子を被り直すと、そっと書類を受け取った。
「じゃあ、◆」
「ん」
 そして反対側の手を――元はログポースを着けていた左手を伸ばす。
「よろしくな!!」
 ◆も顔を上げ、ログポースを着けている左手で、その大きく温かい手を握った。
「ま、ログポースが見つかるまでは、ね」
 諦めたように見える反面、少し楽しそうにも見える表情に、エースはいつもの太陽のような笑みを浮かべた。
 そんな和やかな空気を割るかのように、ふいに床に震動が伝わり、二人はすぐに立ち上がる。
 騒々しい足音と雄叫びが響いたと思うが早いか、ドアが蹴破る勢いで乱暴に開かれた。
「やはりここか、ポートガス!!」
 ガツガツとブーツの音が近付き、窓の下に居る二人の前へ現れたのは案の定、“白猟”である。
「いい雰囲気だったのに、邪魔すんなよなァ」
 そう云いながら、エースは分厚い紙束を左脚の青いポーチにギュウと突っ込む。
 スモーカーは十手を構えつつ、無法者の足元に転がるトランクを一瞥した。
「“それ”を盗ったからには、この島から出すわけにァいかねェぞ……!」
「だからよ、お前は“煙”でおれは“火”だ。勝負はつかねェって前から云ってんだろ?」
 肩をすくめ、◆の腰に手を回す。
「……」
 ――またか。
 内心、◆は溜め息を吐き、ゆっくりとエースに寄り添った。協力するとは云ったが、やはり気には食わないので、自然と眉間に皺が寄る。
「能力の相性が悪かろうが、おれが海兵で、お前が海賊である限り、ここで見逃がすわけにゃァいかねェ」
 低く威圧感のある声に意識は対峙しつつ、エースは◆の行動に黒い瞳を動かした。
「いつもながら、つまらねェ理由だぜ……残念だが、おれたちは先を急ぐんだ」
「てめェの都合は関係無ェ! “ホワイトブロー”!!」
 十手を持つスモーカーの腕が煙となって伸ばされた瞬間、エースは◆を抱き、開けたままの窓へ避ける。
「チッ」
「じゃ、失礼しました!」
 足場が悪いと云うのに、ペコリと行儀良く頭を下げ、構えたスモーカーよりも早く窓枠を蹴った。
 後ろも見ずに背中から身を投げた二人に、目を丸くし「待てェ!」と声を上げながら海兵たちが窓に駆け寄る。
「◆、ちょっと熱ィかもしれねェけど」
 素早くそう云ったエースは、片腕で◆をしっかり抱き、空いている手の平を窓へと向ける。
「“蛍火”!!」
 ポポポッ、と小さな火の玉が、蛍の光のように飛んでいき、モノに触れた瞬間それは大きな炎となって燃え移った。
「熱ッ! 熱いィィ!!」
「たッ、大佐ァッ! 基地が燃えますッ!!」
 エースの放った炎は、海兵の服だけでなく、カーテンや棚、大事な“情報”を含むトランクなどにどんどん移っていく。
「バカが! 報告してる暇があったらさっさと消火しろ!!」
 腕で口元を覆いながら、スモーカーは燃える窓へと足早に向かう。

- 57 -




←zzz
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -