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「燃やしたついでって……次は何する気なの? また“情報”?」
 中継基地は普段から海兵らが駐在している場所ではなく、その名の通り、航海の途中で設置されている基地である。今は、停泊中の軍艦に居た者たちが使用する為に稼働している。
 警備も手薄なので、二人は簡単に基地に侵入する事が出来た。
 廊下を行き来する海兵らに見つからぬように進む道すがら、エースは口を開く。
「“四皇”ともなりゃァ、ただのんびり航海してるワケにもいかねェ……世界の動き、“デカイ勢力”の動き、時には政府が公開しねェ情報も把握して、立場による動きを考えなきゃなんねェ」
 海賊の世界もなかなか大変なんだぜ、と笑う横顔はそれでも真剣だ。
「だから海軍なんかに入り込んで、機密情報とやらを入手する任務がさ、オヤジから時々与えられんだ。まァ、隊長は普段そんな事頼まれねェんだが、二番隊のヤツが戦闘で少しポカしちまってさ。んで、今回はおれが行くって云ったんだ」
「隊長が居なくて大丈夫なの?」
 彼がどんな仕事を担っているのか、一隊にどのくらいのメンバーが居るのか全く知らない事だが、大所帯でまとめる者が居ないのは、割と大変なのではと思う。
「あァ、二番隊の奴らの事はマルコに預けてあるんだ――おっ、騒がしくなってきたな」
 様子を見ていた二人の目と鼻の先で、何やら海兵たちが慌ただしく駆けて行った。
 港でのエースたちの騒ぎがやっと届いたらしい。
「この基地に向かっていたとの情報が入った! すぐそこに隠れているかもしれん、用心しろ!」
 そう云いながら消えていった廊下に出て、エースは「ここ、ここ〜」と何やら重厚なドアの前に立つ。
「マルコって、一番隊隊長の“不死鳥のマルコ”?」
 そ! とエースはポケットから針金を取り出し、ドアに掛けられた錠前をガチャガチャと弄りだした。
「ま、普段やらねェっつっても、ストライカーで長旅とか大シケとか慣れてたはずが……まさかログポースを失くすなんて前代未聞だよなァ……」
 ドアに背を向けて周囲を見張っていた◆だったが、少し落ちた声にふと振り向く。
 珍しく項垂れた様子のその手元では、ガチャリと云う音と共に鍵が外れる。
 周囲を素早く見回し、エースと◆はスルリと部屋へ入り込んだ。
「なに、一応落ち込んではいたの」
「落ち込むっつうか……だってよ、部下の責任取るっつって出てきたのに、ログポースを落として完遂出来ねェなんて……隊長としてメンツが立たねェだろ」
「……まあね」
 軍艦の情報管理室と同じく薄暗い部屋だったが、埃っぽいカーテンを引けば大きな窓があり、光が差し込む。
 空気が悪いので、◆は窓を静かに開けて下を覗き込んでみた。中庭や自分たちが通ってきた道には、既に海兵が配置され、茂みや物陰などをくまなく捜索している。
 エースは書類の束やトランク、木箱などが所狭しと置かれた部屋の中を進み、一番奥の棚に来ると「これっぽいな」と“超極秘”と書かれているトランクを取り出した。それには鍵が掛かっていたが、明るい窓の下へ持っていくとその場へ座り込み、再び針金を鍵穴に突っ込む。
「……この海にァ傘下の兄弟たちが沢山いるからさ、そいつらに云えばログポースだって貰えるかもしれねェし、多分オヤジの居るとこまで乗せてってくれる。だけどおれは請けた仕事は最後までやりてェし、失くしたっつー事もまァなんだ……知られたくはねェ」
 さすが“超極秘”は手強いのか、なかなか開かない鍵に後頭部をガリガリと掻いたエースの横で、◆もしゃがみ込む。

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