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「何云ってんだ、おれは絶賛、仕事中だぜ?」
 人聞きの悪ィ、と首を振ったエースは、前を見たまま、後ろの◆の手を掴む。
 ――行くぞ。
 掴まれた手の意味を理解するより早く、その呟きと同時にエースは回れ右をし、
「火拳が逃げたぞーッ、追えーッ!!」
 階段とは反対側の廊下を◆を引っ張りながら駆け出した。
「ちょっ、そっちは行き止まりじゃないの!?」
 そう叫びながらも、とにかくついて行くしかない。再び追われる身となった二人の後ろには、海兵たちと、今度は海軍本部大佐が居るのだ。
「あの野郎、情報管理室で何か盗りやがったかもしれねェ……こちとら、厄介なこの船任されてんだぜ……!」
 下半身を煙にし、スモーカーがギュンと速度を上げて二人に迫る。
「“炎上網”!」
 狭い艦内の廊下に突如火柱が立ち、通路を塞ぐ。
「クソ……!」
 モクモクの実の能力者であるスモーカーに炎でダメージを与える事は出来ないが、足止め程度にはなるらしい。燃える壁越しに、スモーカーの怒りの声が響く。時折その表情が炎に揺らめき、◆にはかなり恐ろしく見えた。
「この船大事だろ? このまま炎が広がるとマズいぜ?」
 ニィと悪い笑みを浮かべたエースは、◆を促すと、怒号を背中に受けながら再び駆け出す。
 迷路のような船内で、時折壁や天井を破壊して進むエースには呆れたものの、とある船室に入ればそこには窓があり。
「よし、ここから出られるぞ」
 窓を開けて、外の様子を覗いてみると、近くに海兵は居ないようだった。皆、消火活動と船内で隠れているであろうエースたちを探しに行っているのだろう。
 コソコソと窓から外に出て、騒がしく集まっている海兵らのスキを付いた二人は軍艦のタラップを駆け下り、再び港へと出たのである。
「大佐ァ! 居ました、奴らです! 船から出てきましたッ!!」
 当たり前だが、そこにも海兵は居るわけで。
「っし、逃げんぞー!」
 何故なのか、楽しそうなエースに手を掴まれて、またまた走るしかない。
「もうっ! こんな騒ぎにして! 私もタダじゃいられないじゃない!」
「ハハハ、悪ィ悪ィ」
「悪いって思ってないでしょ!? 任務だか何だか知らないけど、今度白ひげに会ったら一言文句云わせて貰うんだから!」
 息を切らしながらそう悪態をついた◆に、エースは何故か嬉しそうに笑う。
「さっきからすげェ怒ってるな、◆」
「当たり前でしょ! ハァ……ッで、ここは何っ?」
 ふと気付くと、見慣れぬ場所へ出た。と云っても、この島を把握しているわけではないので、ほとんどの場所が見慣れないのだが。
 二人が足を止めたのは、海軍の中継基地の前だった。
「軍艦燃やしたついでだ、こっちも行くぞ」
 は、と問いただす前にまたも手を引かれれば、戸惑いながらもついていくしかない。
(この人と居ると、こんな事ばっかり……)
 思えば、初めて会った日もこうして手を引っ張られ、屋根の上を走ったのだ。
 それを思い出すと、不思議と可笑しくなる――腹立たしい事なのに、何故だか笑ってしまいそうになるのだ。

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