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「はあ!?」
そして勢いを止める事なく、目前に迫る海兵たちを炎で一掃すると、あろう事か停泊している軍艦のタラップを駆け上がっていく。
降り途中の者や、騒ぎを聞きつけて武器を手に出てきた者を気にも留めず、なんとエースは敵地である海軍の船へ上がり込んでしまった。
「ど……な、ちょッ!? なんで軍艦に突入してんの!!」
血迷ったか! と、喚く◆の反応も当たり前である。
エースは何故か勝手知ったる様子で甲板を駆けると、船内へ続く階段を一気に飛び降りた。
航海を終えた軍艦に乗っている海兵は少なく、エースとコバルデの騒ぎでほとんど出払っていた。とは云え、そのエースが軍艦に入って行ったのは皆見ていたわけで、大きいとは云え船の中で追い詰められるのは時間の問題であった。
何か目的があるかのように船内を駆けるエースは、突然の海賊の登場に驚く海兵たちをことごとく退け、とある部屋のドアの前で立ち止まると、ようやっと◆を解放してくれた。
遠くの方では「火拳を探せ!」と船内を探し回る声が聞こえる。
全く自分で走っていなかった◆は、少々息を切らせているエースの背中を容赦なく叩いた。
「ッた! だから痛ェって!」
「ちゃんと説明してよ、軍艦に乗り込む海賊なんて聞いた事ない!」
目を吊り上げる◆に、エースはヘヘ、と笑った。
「だからさ、“これ”がおれの“理由”なんだ」
そう云って、ドアノブを回す。
薄暗い部屋に足を踏み入れたエースは、左手の指先を炎に変え、倉庫のように棚が並ぶ通路を迷う事なく進む。棚にはトランクが並べられており、それには“重要”やら“限定秘”などデカデカと書かれている。
「オヤジからの任務でさ」
不安げに入口から見つめている◆をよそに、エースはお目当てのものを見つけた。一際大きな字で“極秘”と書かれたトランクを右手で取ると、ためらう事なくそのロックを解除し、中にあった書類を懐――はないので、ズボンのポケットにねじ込んだ。
「――海軍に潜入して“情報を盗め”……ってよ」
そしてトランクを元通りにしまい、さっさと入口へ戻ってくる。
「情報……」
「この船は沢山の“情報”が積まれてる“情報船”なんだ。もう畳まれちまってるが、帆にはこれ見よがしに“極秘”って書いてあんだぜ。だから、昨日見かけた時から狙ってたんだ」
「……なるほど……?」
得意げに云うエースだが、◆はまだ合点がいかない。
しかし、納得するまで説明してもらう暇は無いようだった。
「ポートガス!!」
情報管理室から出ると、向かう廊下の先には煙が充満していた。火事かと思ったが違う。
「あの人……“白猟のスモーカー”!!」
海兵の事はあまり知らないが、◆にも分かる――葉巻を二本咥え、仁王立ちしているのは海軍本部の大佐・スモーカーである。
「おうッ、久しぶりだなァ!」
余裕の笑みで手を上げつつ、エースは◆を庇うようにして前に出た。
「……隊長の仕事サボって女なんか連れやがって、海軍船でデートか」
スモーカーも余裕を見せつつ、背中の大きな十手を手に取り、ジリと近付いてくる。
甲板に出るには、彼の後ろにある階段を使わなければならない。が、とても退いてくれるとは思えない。
◆は、スモーカーの鋭い瞳に思わず後ずさりをした。
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