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「アハハ、なんつータイミングだ。もしかしてコバルデの掃除をやらされたのかねェ?」
「そんなのどうでもいいけど、どうするの? 面倒臭い事になるから私は海兵に手を出した事はないし、どうにか逃げないと……」
 そう云って、◆は縄梯子の方へ向かう――が、グイッと腕を掴まれ振り向く。
「何っ!?」
「縄はもう燃えちまっててな……で、ちょいと失礼!」
 いつかのデジャヴのようだが、エースは突然◆を担ぎ上げたかと思うと、船縁を蹴って宙を飛ぶ。
「――ッ!!!」
 重力に逆らうのと、胃がひっくり返るのが立て続けに起こり、息を飲んでしがみつくしかない◆だったが、エースは気にする様子もなく軽々と浜辺に着地し、待ち構えていた海兵らに炎をぶちかまして行く。
「“火拳”と……その女、“海賊潰し”だな!?」
「やっぱりもう“そうなる”んだな。いいのか、◆」
 ◆を担いだまま、海岸沿いの通りへ出たエースは、そのままの勢いで走っていく。
「……名乗った覚えはないけど」
 吐き気に襲われつつ、担ぎ上げられた◆が見ているのはエースの背後。海兵がこちらに発砲しながら、待て! と叫び追いかけてくる。
 ――私は一応、“海賊に攫われた哀れな一般人”であるつもりだったのに。
 もうなんでもいいや、と揺られながら◆は息を吐く。
 海兵の様子では、自分も海賊同様“危険人物”としてマークされたのだろう。一般人に危害は与えなくても、海賊の金品を奪ったりもしているし、更には今現在協力して(そう思いたくはないが)、いち海賊団を壊滅させ、共に居るのが“四皇”の一角、その息子の“火拳のエース”である。
「そりゃ、あの人たちも騒ぐよ」
「何ブツブツ云ってんだァ?」
「別に何でも……って、ここ何処!?」
 あまり乗り心地の悪くないエースの肩で、ハッと◆は顔を上げた。
「町で撒くんじゃないの!?」
 気付けばエースは海岸通りを過ぎ、港まで来ていた。
 海岸から町へ行くには幾つか道があるはずだが、この場合、何処からでもいいから入り組んだ町へ入り、海兵らを撒き、ログが貯まるまで身を潜めるのが定石ではないのか。
「道を間違えたの!? 海兵から逃げてるのに、なんで奴らが集まってるところに来てるわけ!!」
 そう、港には今朝着いたばかりの軍艦が堂々と停泊している。
「同志! “火拳”だ!! 捕らえろーッ!!」
 二人を追う海兵らが、埠頭で作業をしていた仲間へ声を上げて知らせる。
 それに気付き、軍艦周辺に居た海兵らも、手に手に得物を持って向かってきてしまう。
「ねえ、聞いてる!!?」
「おう、聞いてるぜ!」
「だからッ! 出頭するのは勝手だけど、私まで巻き込まないでよ、降ろして!!」
 ジタバタと暴れて、剥き出しのエースの背中を容赦なく叩いてやれば、エースは尚も走りながら「アハハ、痛ェ!」と叫ぶ。
「◆!」
「何!?」
 どうしても放してくれないエースは、かなりご立腹の◆を見上げて、至極楽しそうに笑った。
「ちょっと、おれの用事に付き合ってくれ!」

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