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 その言葉に、コバルデが勢い良く酒を吹き出した。
「ンなッ……!? “火拳”!? 何故そんな奴が……白ひげがこの島に居たってのか!?」
 これは酒を飲んでる場合ではないとグラスを放り、得物を握ると、荒々しく店を出る。
「分かりませんッ……突然船に現れたかと思えば、礼儀正しく『初めまして、おれの名はエース!』とお辞儀をして……」
「ンだそりゃァ、バカにしてんのか!!」
「そ、そうかと思えば、一人の女が何処からともなく現れて……次々にクルーを斬りつけていったんです!」
 女ァ!? と、目を剥くコバルデに、狼狽えるばかりのクルーが先に崖を降りていく。
「もしかしたら、最近話題になってる“海賊潰し”かもしれねェな……“火拳”と行動しているとか、チラッと書いてあった気がするぜ」
 “海賊潰し”が白ひげ海賊団の隊長と居る理由は全く分からないが、コバルデにとって大事なのはそんな事ではない。自分の海賊団と名声――それは守らねばならない。
「“火拳”が現れたなら戦うまでよォ! “海賊潰し”だか知らねェが、二人共々ブッ刺してやるぜェ!!」
 そんな雄叫びを上げ、崖を降りていくコバルデだったが――。



「◆! 次こっち行くぞ!」
 コバルデ海賊団に奇襲をかけたエースと◆の暴れること暴れること。
 海軍が駆け付けるまでの間に出来るだけ! と◆はカトラスを振るった。危ない時はエースの炎が必ず防いでくれ、自分がやりやすいように動いてくれていた。
「指図しないでって云ってるでしょ!」
 そう毒づきながらも、◆は今まで感じた事のない感覚に襲われていた。
(楽しい……!)
 やっている行為はまさに蛮行だが、背中をエースに任せて動く事が心地良い。右に剣を振るえば、左の敵を炎が飲み込む。云われた方向へ駆けつけ、エースが敵と対峙する間に、自分が脇を抜けて剣を交える。
 故郷の島を出てから今まで何もかも一人きりでこなし、戦ってきた◆にとって、それは“楽しい、面白い”と感じる時間だった。
 協力する相手が海賊である事は気に食わないが、それがエースだからこそ信じて動けると云う事は、自分でも理解していた。
 ――気付けば、コバルデ海賊団は全滅していた。
「さっきのって多分、コバルデだよね……?」
 高揚していてあまり考えていなかったが、先程自分が斬りつけて、エースが火だるまにして海へ落ちていったのは、狙っていた船長・コバルデだ。三叉槍が船縁に落ちているので判ったのだが、まさかボスをいつの間にか討っていたとは。
 甲板で息を整えていた◆に駆け寄ってきたエースは、邪魔になったのか脱いだシャツをバサリと放る。
「やっぱりあなたは強いね」
 汗を拭いながらそう云った◆に、エースは一瞬目を見開いたが、すぐにニィッと笑った。
「なんか、◆と一緒に戦ってんのが楽しくなっちゃってさ」
 その言葉に、今度は◆が目を丸くする番である。
「だけど、それで調子乗ってたら……こんな事に」
 ヘヘ、と苦笑いするエースが振り返れば、そこはもう火の海だった。
「やたら熱いと思ったら……まぁ、もうここに用は無いし、そろそろ離れないと海軍が――」
「居たぞ!! 海賊船の上に二名!!」
 ◆の言葉は、下から聞こえてくる海兵の声によって遮られた。

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