50
なんとか食べ終わったエースの分も合わせて勘定をし(食い逃げはごめんだ!)、外へ出ると海兵たちが慌ただしく通りを走っていった。
「どうやら“アイツら”の事に気付いたみてェだな」
チッチッと楊枝を咥えるエースは海兵が走って行った方に歩き出す。
「じゃあ……今コバルデを討つのは難しいかも」
海軍のおかげで奴らの居場所はすぐに掴めそうだが、戦闘を仕掛けるには海兵が邪魔だ。
「でも、島で遭った海賊たちはみんな潰してきたんだろ」
「そうだけど……」
エースは楊枝をプッと吐き出すと、一瞬でそれを燃やし消してしまった。通りに居る誰もそれには気付いていない。
「コバルデ、だっけか? アイツらはタチ悪ィ海賊だが、今来た海兵共にもタチの悪ィ奴が居るんだ。けど、おれにとっちゃ好都合だな」
軍艦見りゃ、どういう奴が乗ってるかは大体分かるからなァ、と笑うエースを、◆は不思議な気分で見上げる。
今朝からエースは少し変だ。
(変っていうか……何だろう、表情が引き締まってる感じ……?)
食べている途中に寝たり、呑気に笑う様はいつもと変わらないが、隣に居るのは“海賊”なのだと改めて認識させられる雰囲気をまとっていた。
「あなたにとって好都合って?」
「昨日云ったろ? “やるなら明日にした方が都合がいい”って」
「……もっと分かりやすく云ってくれない」
何かを含んだ云い方に、苛立つ態度を隠さない◆だったが、それを気にする事なく、エースは見えてきたガレオン船を顎で差す。
「とりあえず行ってみようぜ、◆。様子見だけでもいいしな」
何処か面白そうに首に掛けていた帽子を被り、◆の方を向いた。
「騒ぎになりゃ、すぐ海軍が駆け付ける筈だ。おれと一緒に“海賊潰し”が行動してるのはもう知られてんだ、捕まりゃ面倒なことになる。おれの傍を離れるなよ」
「付き添う、だけじゃないわけ……?」
一緒に行く、と云っただけなのに、何故指図を受けなければならないのか。しかし悔しいが、エースの云う事にも一理ある。
「っし、行くぞ! ◆!」
「ちょっと、一緒に行くだけなんだから、それを忘れないでよね!」
口を尖らせ、忠告してくる◆に、エースはいつものニカッとした笑みを見せた。
懸賞金5700万ベリーの海賊“三叉槍のコバルデ”は、海岸沿いの酒場に昼間から入り浸っていた。
茂みから緩やかな崖を降りれば、海水浴には向かない荒れた浜辺があり、その傍らの岸壁に自船を隠すように泊めていた。
この島は海軍の基地がある。基地と云っても中継基地なので、海兵が常時駐在しているわけではない。航海の折に物資の調達や連絡をする為、寄るだけの場所だ。特別警戒する事もないだろう、とコバルデ海賊団は思っていた。
もし何かあってもすぐ対処出来るようにと、船長は今のように船の近くに居たし、クルーも付近で行動するようにしていた。
海軍が来ようが恐れる事はない、返り討ちにして名を広めるチャンスだとコバルデは悠々と酒を飲んでいたのだが。
「……何だァ?」
どうやら“何か”が起きたらしく、コバルデはグラスを持ったまま立ち上がった。
スイングドアを押して、船の方を見れば、明らかに戦闘の音が聞こえてくる。
「か、かかッ! 頭ァァ!!」
次いで一人のクルーが慌てた様子で駆け込んできた。
「どうしたァ、海軍が来たか」
酒の残りをグイッと口に含んだコバルデに、クルーはブンブンッと首を振る。
「ひ、ひ、ひッ! “火拳”が! 白ひげんとこの“火拳”です! 船が襲われてますゥ!!」
- 50 -
←|→
←
←zzz