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 翌朝、◆が目を覚ますと、エースは隣のベッドにはおらず、代わりに洗面所の方からシャワーの音がしていた。
 ベッドから起き上がると、シャワールームのドアが開かぬ内に、洗面所で手早くと顔を洗い、歯を磨き、部屋に戻る。
 着替え終えたところで、半裸にタオルを首に引っ掛けたエースが「おう、おはようございます!」と、いやに礼儀正しく出てきた。
「すぐに準備すっから、まずはメシ屋に行こう、な! 昨日あんまり食えてねェからしにそうだ!」
 バサバサと乱暴に髪を拭きながら、もう一枚シャツあったかな〜と、バッグを漁る。
「そんな事より、昨日の話の続きを……」
 そう云ったところで、ふいに外が騒がしくなった。
 少し高台にある宿の窓からは海岸沿いの町と港が見える。窓を開け放すと、どうやら港の方が賑やかしい。
「何だろう……?」
「海軍が来たんだよ」
 出窓のスペースによじ登り、景色に目を凝らしていた◆は、エースの言葉に振り返る。
「何で分かるの? まさか、あなたを追って――?」
「ん〜多分違う。ホラ、昨日軍艦を見たろ? あいつらじゃねェかな。この島に海軍の中継基地があるのは知ってたから、ここへ向かってると思ってさ。先に着いておきたくて船を飛ばしたんだ」
 前の島で、次に目指す島の名前は把握しており、そこに中継基地があるのも把握済みだった、とエースは得意そうに云った。
 面倒を増やさないためにも、海軍の動きは知っておくに越した事はない。
 シワシワのシャツを引っ張り、どうにか羽織っているエースを横目に見ながら、◆はフウン、とつまらなそうに出窓を降りる。
「とりあえずメシを食おう。奴らのことも、話はそれからだぜ」
 カッコ良く云ってはいるが、エースはただ空腹なだけであろう。とは云え、◆も腹が減っていないわけではないので、立てかけておいた得物を腰に差した。
「あ、船が無事か、確認しに寄ってくから荷物は持ってくれな」
「……何で荷物を持つ必要があるの。もうここには戻らないつもり?」
「ん、どうなるか分からねェけど。一応な」
 そう云って、エースは腕や首に愛用のアクセサリーをつけ、バッグを背負ったので、しょうがなく、◆も少々広げていた荷物をまとめて背負った。
「後でちゃんと説明してよね」
「分かってるって」
 そんな会話をしながら宿を出た二人は、昨夜ストライカーを停泊させた岩場へ向かい、船の無事を確認した。
 行きがけに見た海兵たちは、積荷の搬出や、中継基地とのやり取りに追われているらしく、島内の完全警備まで手が回っていないようだった。海賊への警戒をするにしても、目立つ“三叉槍のコバルデ”に対してだろうし、こんな小さな船を気にかける事もないと思われた。
 とは云え、荷物をストライカーへ放置するのは気が引ける◆だったが、エースには何か考えがあるらしく、「大丈夫だから」と押し切られてしまった。
 再び、海岸沿いから町へ入り、賑やかなレストランで腹を満たす。
 食べながら、エースに話を訊こうと思っていた◆だったが、案の定――この男は食べては寝るを繰り返すので、会話を続ける事は難しかった。

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