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「どうしてもって云うんなら、おれも一緒に行くよ」
「え?」
怪訝な顔を浮かべる◆にランプをもう一度渡し、バッグからカモフラージュ用のシャツを出すと、代わりに帽子を突っ込む。そしてシャツを羽織りながら、海岸の方を顎で指した。
「アイツら――前に、ウチの傘下の兄弟を卑怯な手でやりやがったんだ。そう云う理由なら、おれも参加していいだろ?」
ウチと因縁のある海賊なんだ、とエースは少し表情を険しくさせる。
「……助けなんて要らないけど」
「ん〜、助けるんじゃねェよ、一緒に行くんだ。仇ってのもあるけど、おれは◆が怪我するのが嫌なんだ、なるべくならしないで欲しい……ダメだって云われてもついていくからな!」
つまり、自分の活動に付き添います! と云う事か、と◆は顔をしかめた。
自分の正体は知られているものの、エースの力を借りるのは何となく嫌だった――が、今の彼の様子では、拒否をしても酒でつぶしても撒いても、ついて来そうだ。
「はあ……」
助けてやる、と云われたわけではないし、不承不承と溜め息混じりに頷けば、世話焼き海賊・エースは満足そうにランプを手にし、再び歩き出す。
「ああ、でもよ、やるなら明日にしとこうぜ。お互い疲れてるし、きっとその方が都合がいい」
「都合? 何で……」
「明日になりゃ分かるさ」
そう云って、肩越しにイタズラっぽく笑んでくるエースに、◆は「はあ……?」と首を傾げつつ、ついて行くしかない。
かなり栄えていると見た大きな島の中心街は、夜でも賑やかだった。カタギもゴロツキもライトの下を行き交う中、二人を怪しく思う者などは居ないだろう。
これ幸いと、立ち飲み屋で遅い食事を軽く済ませ、宿を取る。
◆が一人で出歩かぬようにと、監視のために同室にしたエースだったが、荷物を置き、ベッドに転がったかと思いきや。
「ぐおー……」
「見張るって云って、即寝てるし」
呆れた、と◆はその寝顔を見下ろす。
(まあ、自分の能力使って、私を乗せて船を走らせてるんだから、そりゃ疲れるよね)
起こさぬように、と云っても多少の事では起きなさそうだが、◆は出来るだけ静かに自分のベッドに近付き、サイドの灯りを残して後は消してしまった。
ベッドに置いた荷物から着替えを手に取って、シャワールームへと向かう。
見張り役が爆睡しているとしても、◆は外に――“仕事”をしに出ようとは思わなかった。
服を脱いでいくと、少し痣のように残る足の傷に目が留まり、ふいに思い出す。
――平気か? ◆。
自分の心臓が串刺しとなる寸前に、駆けつけたエース。
――あとはおれが引き受ける。
険しい表情ながらも安堵を浮かべ、頬を拭ってくれたエースは、怒りをあらわにハルバードを丸焼きにした。
あの時、自分はエースの事を不覚にも格好いいと思ってしまったのだ。
朦朧とした意識の中、ほんの少し、ほんの少しだけ嬉しかった――それが悔しい。
「っ……あれは、助けに来てくれたから……! そう云うシチュエーションだったから、思っただけだもの!」
一人で喚きながら、バスタブのシャワーを捻る。
案の定吹き出てくるのは冷水で、ギャッと情けない声を上げてお湯を待つ。
(そう云えば、エースの話……まだ聞いてない。“後で”って云ってたけど、はぐらかすつもり……?)
明日、出掛ける前にちゃんと問いたださなければ、と◆は決め、頃合いとなったお湯を頭から被るのだった。
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