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「私を殺さないの?」
「はァ!!? なんでだよ!」
 素っ頓狂な声とともに、勢い良くこちらを振り向いたエースの目はまさに真ん丸だ。
「だって……私からログポースを奪うことだって出来るでしょ」
「なんでそんな事する必要があるんだ!?」
 何云ってんだお前、と心底驚いたような表情を見せたのち、エースは前を向き直す。
「云ったろ! 連れてきたのが◆で良かったってさ! おれは◆の事、気に入ってんだ、そんな奴の命を奪うなんて考えたくもねェ!!」
 後先考えず、思わず連れてきてしまったが、次の島で別れ、自分は本船か兄弟たちの船を頼っても良かった。けれど、突っぱねられても一緒に航海する事を決めたのは――。
「おれの“指針”は“◆”だ! “ログポース”じゃねェ、それを覚えておいてくれよ! ◆が居なくなったら困るんだ!!」
 エースは常に本音で対話する。
 それは◆にも随分解ってきた事だった。
「…………」
 波に揺られながら、◆はふとその視線を下げる。
 たくましいエースの背中――そこには白ひげの海賊旗と同じ、故郷の島に佇むマークが彫られている。
 十年も前に見た、記憶の隅で豪快に笑う海賊を思い出し、◆はほんの僅かに微笑んだ。
「……、…………」
 その口元から静かに、優しく紡がれ出す歌。
 途切れ途切れに聴こえるそれに、時折歌詞を耳にとらえながら、エースもまた、そばかすの散る顔を綻ばせるのだった。



 次の島に着いたのは夜中だった。
 航海中は大抵、夜になったら走るのを止めるエースだったが、今回はどうしても島へ辿り付きたかったらしく、真っ暗な夜の海をひたすら走らせていた。それは日中に見かけた海軍のせいなのだろうか、と◆はぼんやり思っていた。
「お疲れ、◆。ほら、手」
 ストライカーを岩場につけ、片足で岸を踏んだエースに、支えられながら船を降りる。
 ランプをかざしながら、渡されたロープを持ち、エースが投錨するのを待っていると、少し離れたところに大きな海賊船が泊められている事に気付いた。
 ◆が持っていたロープを手頃な場所に縛り、ランプを受け取ったエースは、◆の目線を追う。
「……ああ、海賊船か。あのマークは……」
「“三叉槍のコバルデ”、懸賞金5700万」
「そうそう、ハハ。さすが、知ってるな」
 “海賊潰し”である事はもはや隠すこともない、と◆がサラリと情報を口にし、エースは可笑しそうに肩を揺らした。ガサガサと雑草を踏み、◆が歩きやすいよう石を蹴って道を作っていく。
「…… ◆、“海賊潰し”をやめろとは云わねェが、今回は止めておいた方がいい。身体もまだ本調子じゃねェんだろ?」
「っ、そんな事……」
 足の痛みはもう無いし、傷は完治したと云えるが、激しい戦闘となれば体が云う事を聞くかは心許ない気もした。だが、そう云われてしまえば強がるのは◆の性格だった。
 足場の悪い岩場を進み、海岸通りに出たところで、エースは足を止めて振り返る。

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