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「ヘェ……! おれが入ったのは三年くらい前だから知らねェが……そうか、オヤジが――! だからおれを助けてくれたんだな」
 海賊は嫌いだが、故郷を守ってくれた白ひげは別。もしくは、嫌いだが恩はあるという事か。
 どちらにしろ、自分の事のように誇らしいという気持ちを隠さず、エースはウンウンと頷いた。
「……これで満足?」
 そんなエースの様子に呆れているのか、やれやれと首を振る◆は、早くも乾き始めたシャツを腰に巻く。
 白ひげを通してだが、自分と◆とにつながりがあった事を嬉しく思うエースだったが、「ゴールド・ロジャーも嫌い」と云う言葉には、どうしてか胸が詰まるような、喉が締まるような感覚で。
 自分がその息子だと云うのは、認めたくはないが紛れもない事実だ――モヤモヤとそう考えながら、これは◆に話す事ではないかと、緩んでいた表情を引き締めた。
「つらい話させてすまねェ……でも、話してくれてありがとな」
 ◆が命の危険を省みない活動をしている理由を知る事が出来て、エースは素直に嬉しいと思っていた。それは不謹慎かもしれないが、先程の涙といい先日の感謝の言葉といい、少しずつ彼女に近付けている気がするからだ。
「じゃあ、あなたの事も話してくれるんでしょうね」
 これだけ話してやったんだ、と云う態度丸出しで、ふてぶてしく云った◆に、エースは肩をすくめながらも頷く。
「あァ、もちろんだ」
 しかし、その視界の端に“それ”は映り込んできた。
「ん……? ありゃァ――」
 真っ直ぐな水平線。空と海と、自分たちしか映らない360度の世界に、ポツリと何かが浮かぶ。
 エースは目を細め、次いでバッグから望遠鏡を取り出し、その方角を覗き込んだ。
「――しめた!!」
「……何? どうしたの」
 望遠鏡から目を離し、ニヤッと笑ったエースを、◆は訝しげに睨んでくる。
「◆、掴まれ! 船出すぞ!」
 そう云って、エースは望遠鏡や足元に散らかった荷物を仕舞い、素早く帆を畳む。
「ちょっ!? ちょっと、話は!?」
「ンなの、あとあと! 見ろ、あっち! 海軍だ!」
 エースがドタドタと動くので、◆は揺れるストライカーにしがみつきながら、エッと声を上げた。
 云われた方角に目をやると、ほんの小さな黒い点が何となく見える――ような気がする。
「前の島の奴らが追ってきたの?」
「いや、あれァまた違う軍艦だ……とにかく気付かれたら面倒だ、行くぞ、◆!!」
 何故違う軍艦だと分かるのか、と云う疑問は浮かぶものの、エースがさっさと立ち上がってしまったので、◆も慌てて立ち上がり、マストの台へ足を掛ける。
 エースは自分の肩に掴まった◆から差し出された左腕――のログポースで方向を確認し、海の彼方を見据える。そうして足元に炎が走り、ストライカーはブウン、と動き出した。
「――ねえっ」
 再び海を裂くように、白波を作っていくストライカーに揺られながら、その水音に負けぬように◆は声を上げた。
「なんだ!」
 前を向いているエースの声は更に届きにくいため、彼もまた大きな声で応える。

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