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「それに海軍も嫌い……だから私は賞金首を倒してもアイツらに提出しないし、海賊の宝は貰うの。海賊の戦利品は海軍や政府のものになっちゃうでしょ? 何に使ってるか知らないけど。なんかそれも癪だから、旅費とかに頂いてるの。強盗だとか、盗賊だとか云われてるみたいだけど気にしない。だってどっちにしろ汚いお金でしょ」
 フン、と鼻を鳴らした◆に、エースは苦笑いする。
「でも、宝目当てじゃないとも云われてねェか?」
「だって私一人で持ち帰る事が出来る量は限られてるもの。大きいものは目立つから選ばないようにしてるし、荷物が増えたら厄介な時はそれこそ取らないで帰るし。まあ、海に捨てる事もあるけど……だからじゃない」
「……んー、なるほどな」
 ふむ、とエースは腕を組み、得物と一緒に膝を抱えている◆に目をやった。出逢ってから今までで、一番喋ったのではないかと思うくらいで、エースにとっては嬉しい事だったが、話した内容は明るいものではない。
 故郷の島を海賊と海軍によって荒らされたせいで、◆と島の人々は酷く疲弊し、傷ついたのだろう。そして、◆が今までを戦ってきたのは自身の憎しみだけが理由ではない、とエースは思う。小さな島と云うから、きっと皆が顔馴染みで仲が良いに違いなく。その中には海賊たちの争いで怪我を負ったり、命を落とした者も居て――その者たちの哀しみや怒りを背負って、◆は海賊に恐怖を、海軍に混乱を与えようと決めたのではないか。
 自分はサボやルフィやダダン、白ひげたちに心の闇を救われた。いつから得物を握ったかは知らないが、戦う事を選んだ◆にそんな存在は居たのだろうか――。
 同じ時代を生き、傷ついた彼女の苦しみや痛みはとてもよく解った。しかし「どうせあなたも海賊だ」と云われてしまえば終わりだし、エースは何も云えずにいた。
 ◆はその沈黙の間に、濡れた服を水面でギュウと絞っていた。
「……一つ、訊いてもいいか?」
 皺を伸ばそうとシャツを振る手元を見つめながら、エースは躊躇いがちに訊ねる。
「なに?」
「おれを――あの大シケの日、おれを助けてくれたのは何故だ? “この背中”に気付かなかったワケじゃねェだろう」
 逞しい背中に刻まれた“白ひげ”のマーク。小さな子供が遊び歌として知っている時代である。
 ずっと疑問だったのだ。
 初対面の時も、さぞ海賊が嫌いなのだろうと印象を与える彼女が、何故その海賊である自分を助け、わざわざ宿まで連れて帰ってくれたのか。
「それは……」
 ◆はもごもごと口を動かしていたが、一瞬だけエースと目を合わせたのち、その視線を水平線へと移した。
「“その”タトゥーが……“白ひげ”だったから」
「オヤジの、だったから……?」
 聞き返せば、彼女は云いにくそうに、それでも頷く。
「メチャクチャになった故郷の島が、復興に向かっていけたのは、白ひげのおかげ……なの。どうしてあんな大海賊がファーストハーフに居たのか分からないけど、私の島に立ち寄った白ひげは、荒れ果てた景色のワケを知って、“ここを自分のナワバリにする”と宣言した……小さな島はそのおかげで守られて、再び荒らされる事は無くなったし、今も島の高台には、白ひげの海賊旗が掲げられてる」

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