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「――“海賊潰し”……って名乗った覚えはないけど、それが私のことだってもう分かってたでしょ」
 単刀直入とはこのことか、とエースは肩をすくめた。彼女らしいと云えばそうなのだが。
「あァ。海賊が嫌いだって云ってたし、島に居た海賊のことや怪我なんかも重なるしな。そうとしか考えられねェ。ハルバードにも、◆から喧嘩売ったわけだろ?」
 先の島で“海賊狩りならぬ海賊潰し”とも呼ばれていたのは自分です、と◆に云われてもエースは驚かなかった。そうだろうと薄々勘づいていたし、◆も感じていたらしいが、それにしても彼女の行動は怪し過ぎたのである。
「でも、おれは“それ”をする理由を知りてェんだ」
 “海賊狩り”ならば、懸賞金が目当てだろうから、船長の首は海軍へ渡すものだ。しかしそれもなく、ただただ海賊を全滅させ、少しだけ金品が無くなっていたりする――何が目的なのかと、エースは島の住民と話していたのだ。
「私の故郷は、グランドラインのファーストハーフにある、本当に最初の方の島なの」
 ゆらゆらとストライカーが波に揺られ、◆は膝を抱えて話し出した。
「私が生まれる二年前、大海賊時代が始まった。そこからこぞって海賊がグランドラインを目指してきた。大体の海賊はファーストハーフでふるいにかけられる。だからもう、とにかく海賊で溢れてて、みんな血気盛んで。悪い奴らばかりじゃなかったけど、入口に近い島は海賊同士の喧嘩や暴れ足りない奴らによって荒らされてた。それでも、何度も復興を掲げ、立て直して頑張ってきたの。私も物心ついた頃には、荒らされた畑を耕し直したり、壊れた家の補修を手伝ったりしてた……」
 ◆は荷物に立てかけておいたカトラスを手に取った。
「だけど十年前、大規模な戦闘が起きたの。海賊連合対、海軍のね。故郷の小さな島はめちゃくちゃにされて……戦場になった場所に何が残るか分かる? ――死体とガレキ、絶望だけ」
 吐き捨てるように◆は云う。
 十年前と云えば、エースはコルボ山で10才を迎えていた。
 戦闘の跡地に残ったものと聞いて、グレイ・ターミナルのことをふと思い出す。あのゴミ山にも日常的に転がっていた死体、絶望――
「だから……私は誓ったの。海賊はみんな潰してやるって。一人で出来ることなんてたかが知れてるけど、この憎しみを思い知らせてやりたいから……!」
 そう云って、得物をギュウと握り締める。
「……だから、海賊が嫌いなのか」
 自分も同じ頃、胸に抱えた“憎しみ”をどうにか晴らしたくて、手当たり次第に人を傷つけていた時期があった。そして名声を手に入れたくて、自由な海賊になろうと決め、サボやルフィと出逢った――
「そう――この大海賊時代を作り出した“ゴールド・ロジャー”だって嫌い……!」
「……ッ!」
 ギクリ、とエースの肩が揺れ、息を飲むが、◆には気付かれていないようだった。まさか海賊王の息子が存在するとは誰も思わないし、目の前に居る男がそれだと思うわけもない。
 エースはそのまま長く息を吐いてから、知らず唇を噛んでいた。

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