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「ありがとうな、◆。命綱付けてたって、力入んねェから水面に顔出せねェし、助けてくれなきゃしんでた。でもさ、◆は今だけじゃねェ。おれを何度も助けてくれた」
 そう云って体を離したエースは、指の隙間から睨んでくる涙目にニッと笑いかけた。
「だから、話せって……?」
 ◆はその目を擦り、鼻をすすると、居心地悪そうに身じろぐ。
「……分かってるくせに、どうしても私の口から聞きたいわけ」
 そう云いながらシャツを脱ぎ、キャミソール姿になった◆は、荷物からタオルを出してエースに投げ、もう一つ取り出して顔を拭った。
「おう」
 投げつけられたタオルで髪をガシガシ拭きながら、エースが尚も笑って応える。
 タオルに一度顔を埋めてから、何度目になるか分からない溜め息を吐き、顔を上げた。照りつける太陽でジリジリと肌が焦げる。
「……さすが、5億5000万の首」
 人が必死に作った壁を容易く壊す。張り詰めていた気を、その笑みで許させる。
「――じゃあ、私も話すから、あなたも話してよ」
 ◆はそう云って、タオルを肩に掛けた。
「……おれか?」
「そう。――白ひげ海賊団二番隊隊長、ポートガス・D・エースが、何故本船を離れて単独で行動しているのか。何が目的でグランドラインを航海しているのか、を」
「――!」
「あの日……ログポースを失くさなければ、何処へ行く筈だったのか教えて」
 ◆がジッと見つめれば、思った通り、エースは黙ってしまった。
「……ほらね。あなたにだって話せない事くらいあるでしょ。私だって同じなの。だから――」
「分かった、話すよ」
 エースはタオルを取り、ウンと頷いた。
「◆はおれの“指針”だ。◆にちゃんと説明せずに、ログポースを借りて航海するんじゃ、申し訳が立たねェ……オヤジに怒られちまう。今まで話さずにいてごめんな」
 眉を下げてそう云われれば、◆は何も云う事が出来なくなる。全く、5.5億の男は油断ならない。
「互いに隠し事があるままでこの先行くのは嫌なんだ。……そりゃ話したくない事があっても変じゃねェ、無理に話す事はねェ。けど、今の問題は、◆が何か危ない事をしてて、それで怪我してるって事だ。おれはそれが心配なんだ」
 “隊長”の顔なのか“兄”の顔なのか、世話焼きの面を持つエースは、◆の頭にポンと手を乗せた。
「いつログポースが見つかるか分かんねェけど、おれは一緒に来てくれてんのが◆で良かったって思ってる。◆が怪我したり困ってたら放っておけねェ。“関係無い”なんて云いたくも、云われたくもねェんだ」
 それは本当に真摯でまっすぐな言葉だった。◆はその正直な気持ちがこそばゆく、それを誤魔化すように頭に乗せられた手を退かし、唇を尖らせた。
「……無理やり連れてきたんでしょ」
「ウッ……」
 これがエースの弱みである。
「…………はあ、分かった。話すから」
 弱みは握っているのだし、もう意地を張るのも疲れた、と◆はマストに寄りかかった。
「ありがとう」
 エースはホッとしたような、嬉しいような、けれど少し緊張した面持ちで、佇まいを直す。

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