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 何故、自分はこの手を取るのだろう。
 その温かく大きな手を握れば、ニッと見せる笑顔を崩したくないから――でも何故そう思うのだろう。
「腹立つ」
「あ、えっ? どうしたんだ?」
 ボソッと呟いた言葉に耳ざとくエースは反応するが、それを遮るように、その逞しい肩に手を掛ける。
「方角」
 エースの後ろから左腕を差し出し、ログポースが指し示す方角を見せる。
「……おし! じゃあ、しっかり掴まってろよ」
 再び眩しい笑顔を見せて、久しぶりに橙色の帽子を被り直したエースは、足元に能力を発動させる。
 グン、と機体が動き出し、◆はその肩を掴む手に力を入れた。――と、右手にエースの手が触れた。
「っ――!?」
「最近動いてなかったから、力、あんま入らねェんだろ?」
 握力が弱いと云いたいのか、エースは◆の手を押さえるようにギュッと握ってくる。ちなみに左手は普段通り、黒いハーフパンツのポケットである。
 放して、と云いたかったが、云われた通り少し力が弱まっているのを自分でも感じていて、炎で瞬時にスピードを出したストライカーから振り落とされそうな勢いだった。振り払えば確実に落ちるし、暫くは大人しくしているしかないのか、と◆は不貞腐れたように口を引き結んだ。
 そして――厳戒態勢など全く問題にする事なく呆気無いほど簡単に、エースと◆は島の近海を抜け、次の島への航海へ入っていた。
 島の影が見えなくなって、辺りは海と空だけになり、ログポースが無くなったらと考えるだけで背筋が凍りそうな、まっさらな水平線の景色。
 そんな青い風景を黄色で裂いていくストライカーを、エースは暫く走らせていたが、ふと足元の炎を消した。
「……?」
 何故ここで船を止めるのだろうかと不審がる◆をマストへ掴まらせ、エースは前かがみになり、足元で何か作業をしている。
「何してるの……?」
「ん――おれさ、ちゃんと話しときたくてさ」
 そう顔を上げて云うや否や、そのままストライカーの脇へ――つまり、エースは海へ飛び込んだ。
「――ッ、は!!?」
 エースが飛び込む際に蹴った反動でストライカーは揺れたが、◆はそんな事も気にせず慌ててしゃがみ、海中を覗き込む。
「な、何してんの!? 能力者って泳げないんじゃないの!!?」
 こんなところで突然の身投げ!? と水面を見つめるものの、当然の如くエースは上がってはこない。
 凄まじい勢いで頭上に“?”を浮かべながらも、とにかく、と素早く背負っていた荷物を下ろし、靴を脱ぐ。そして、訳も分からないまま◆も海へ飛び込んだ。
 やはり悪魔の実の能力者は、海の中ではもがく事も出来ないらしい。体に力を入れられないエースは、どんどん水底へ沈んでいくだけかと思われたが。
(……?)
 ◆が潜っていくと、ある一定の深さでエースは目を閉じて漂っていた。
(……ロープ……?)
 見れば、エースの片足首にはロープが括りつけられており、それは海面のストライカーへと繋がっているようだった。飛び込む前は慌てていて気付かなかったが、命綱は付けていたらしい。

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