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 エースは“あれから”何も訊いてこなかった。
 何があったのか教えてくれ、と云われ、関係無いから話す必要も無い、と返した◆に、さすがのエースも怒ったが、それからの態度はすっかり元通りで、気まずさを引きずっている様子も無かった。“兄”と云うだけあって、思うように動けない◆に世話を焼いてくれたが、その恩を着せる様子はこれっぽっちも見せず、二番隊の部下にはさぞ慕われているのだろうなと、なんとなく思う。
(これから、どうしよう……)
 先の事は考えていないが、エースと居る事には迷っていた。そもそも、“海賊潰し”と呼ばれる自分と、“大海賊・白ひげの息子”が共に行動する事自体がおかしいのだ。自分の活動にも限界がきている。
「はあ……」
 カチ、とコンパスを閉めて、◆は大きなベッドに倒れ込んだ。この宿に来てから、キングサイズのベッドは自分のものになっていた。エースはずっとソファで寝ている。
 一方エースも、自分のものと化しているソファに寝転んでいた。
 それぞれが悶々と考える中、島全体には海軍の厳重警戒が敷かれていき、そろそろ◆たちの居る区内にも捜査の手が伸ばされようとしていた。



 秋真っ盛りの秋島での滞在はログが貯まっても続き、実質十日間も留まっていた。
 その間に軍艦が港に姿を見せ、町は海兵らが警戒の目を光らせる状況になっていたが、エースは焦る様子を全く見せなかった。
 駆け出しならともかく、船長としても名を馳せた時期のあるフダ付きの海賊なのだが、やはりその顔を判別したり、カタギではない事に気付ける海兵は少ないようだった。それを心得ているのか、エースは変装してはいたが海兵の横を何事もなく通り過ぎ、ストライカーを隠していた入り江に辿り着いていた。
 念の為と、二人で一緒に歩くのは避け、エースが出て行った数分後、◆も教えられた場所へと向かった。世話になった宿へはしっかりお礼済である。
 入り江に◆が姿を見せると、出航の準備をしていたエースが振り向き、安心したように笑う。
「ホントにもう普通に歩けるんだな、良かった」
 また長い事立ってなきゃなんねェからな、と荷物を背負いながら、エースはストライカーに足を掛ける。
 海岸は一番警戒が張られていたが、今は島の反対側にそれが集中しており、辺りはひと気が無かった。と云うのも、エースがここへ来る前に“ひと仕事”――つまり、島の裏側でひと暴れしたからであった。火拳がついに現れた、と息巻く海兵たちをそこへ集め、注目を引いてからここへ来たのである。
「上手く撒いたから、まだアイツらあっち側で頑張ってんだろ。そのうちに、おれたちは水平線の彼方だ」
 錨を上げ、◆に手を伸ばす。
「さ、行くぞ、◆」
「……」
 エースは分かっていない、と◆はその手を見つめた。
 ここで彼が捕まってしまえば、◆は自由になれる。実際ハルバードを潰したのは自分ではないし、海賊潰しが自分だと、世間にバレたわけではない。ログポースが無ければエースはこの島を出られない。◆がその手を取らなければ、エースは島内で気付いた海軍に追われ、海に逃げられずに捕まる事だろう。
「…………◆?」
 まだ足痛ェか? と云う言葉に、◆はハァ、と溜め息を吐く。

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