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「ん、どうした? 足、痛ェのか、ってそりゃ痛ェよな。ええと、この負ぶり方じゃ痛ェとか」
 足を止め、少し焦ったようにそう訊いてくるエースに、◆は首を振る。
「…………ありがとう」
「お……うん?」
 聞き取れなかったわけではないが、エースは突然云われたその言葉に反応する事が出来ず、聞き返す。
 ◆はこちらを振り向くエースの視線から逃れるように、その背中をジッと見つめてもう一度息を吸う。
「あ、足……さっきお医者さんが、応急処置が適切だったからって……。エースがやってくれたから、でしょ……! だから、ありがとう……っ」
 半ば怒ったような口調になってしまったが、云い切った! と、◆は力を抜いた。
「……っ」
 エースはと云うと、その目を丸くし、口をポカンとだらしなく開いていた――と思いきや、◆の言葉がやっと理解出来たのか、そばかすの散った顔が徐々にほころんでいく。
「――おう!」
 ニカッと音が聞こえそうなくらい、白い歯を見せて笑う。思わず◆の心臓が跳ね、そんな自分に顔をしかめた。
「痕が残っちまうかもってのが残念だけどな。でも歩けなくなるわけじゃねェし、◆が無事でホントに良かった!」
 そう云うと、エースは再び歩き出した。
 見るからに上機嫌になった彼の後頭部を再び眺めながら、◆は小さく溜め息をつく。
「……無事で良かったのは私じゃなくてログポースでしょ……」
「ん?」
 その呟きに、エースはまた足を止めようとする。
「えッ、エースのくせに、怪我の世話とか……驚いたから」
 慌てて◆がそう云えば、エースは歩みを止める事なく、声を上げて笑った。
「アハハハ! それはおれがロギアの――メラメラの能力者だからか? それとも単におれがバカっぽいから?」
「……どっちも」
「ハハハ! まァなっ」
 ◆の素直な言葉に気を悪くする事もなく、エースはケラケラと笑う。
「そりゃおれは火だから、怪我とか最近じゃ殆どしねェけど、おれの隊のヤツが怪我してんのに、隊長のおれが何もしないでいるってのはおかしいだろ? まあ医療班はいるけど、怪我してねェおれがそいつに何か出来りゃいいなーって。怪我してんの見てるだけってのも歯痒いしさ」
 まァ大した事は出来ねェけどな、と続けたエースは、ふと視線を落とす。
「それに……昔は弟がよく怪我するやつでさ」
「……弟?」
 “火拳”に兄弟がいるのか、と◆は目を見張ったが、エースはどこか可笑しそうに頷いた。
「あァ。チビのくせに怪我とか気にしねェでジャングル突っ込んでいくような……出来の悪ィ奴なんだ。だからおれと、もう一人サボってやつがいて。兄貴二人でルフィの――弟の世話焼くんだ。怪我したらばんそうこ貼ったり、見よう見まねで包帯ぐるぐる巻いたりさ。……だから、不謹慎だったかもしれねェけど、◆の足の処置してる時、ちょっと懐かしくてさ」
 ヘヘ、とエースは思い出したのか笑みをこぼす。

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