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「……おれさ、おかしいと思ってたんだ」
◆の疑問を感じ取ったのか、エースはペタペタと薬を塗りながら話し出す。
「ハルバードとか、他の海賊の連中にもすげェ鋭い視線を向けるし……◆の傷も増えていく気がしてたしな。だから、見張るってわけじゃねェけど、◆の事ちゃんと注意しとこうと思ってたんだ。危ねェ事しねェようにってさ……そしたらやたら優しく酒飲ませてきただろ? こりゃ怪しいなと思ったけどさ、まァ◆に酒勧められたら断れねェし……」
だから潰れちまったけど、と肩をすくめたエースは、薬のフタをカポ、と閉めた。
「店で目が覚めた時、宿に行こうと思ったんだ。けど、なんか嫌な予感がしてさ、直接あの岩場に行ったんだ。したらよ、◆が大変な事になってっから……。岩場に向かう時、宿に居てくれよって思ってたんだけどな――でも、間に合って良かった」
そこでフゥ、と息を吐くと、ベッドから降り、ワゴンに用意されていた大きめのシャツを取った。再び、◆はエースに手伝われながらシャツを羽織る。
「おれも◆がヤバい事になってんのを見て、頭に血が上っちまったからさ、アイツらから何も訊かないまま丸焼きにしちまったけど……なァ、何があったのか教えてくれねェか?」
怪しいと感じていて、ここまで見たのならもう判っているだろう――けれど、エースは問いただす事もなく、責める事もなく、ただ優しく◆に促す。
「話す必要は無いでしょ。あなたには関係無いの」
◆は力の入らない手を動かし、シャツのボタンを止めながら、いつもの如く跳ね除けるように云った。
エースは処置の片付けをしていたが、その手を止めて◆を見る。
「……関係無くねェだろ……! さっきの――間一髪だった、しぬとこだったんだぞ!? 今は◆は一緒に航海する仲間なんだ、心配なんだ!!」
ベッドの脇に立つしかめ面のエースを見上げ、◆も負けじとにらみ返す。
「そう思ってるのはあなただけ!! それに、心配なのは私じゃなくてログポースでしょ!?」
「はあ!? なんでだよ、違ェ!!」
憤慨したように目を見開くエースだったが、フンをそれを鼻で笑う。
「さーあ、どうだか?」
「……ッ」
全く聞き入れない◆のその様子に、エースはムッとした表情を浮かべた。
もっと怒り出すか、もう知らんと放り出されるかと思った◆だったが、エースはそれ以上声を荒げる事もなく、ベッドの上にあった道具や包帯の切れ端などを片付けていった。そして綺麗なシーツを◆の怪我に障らぬように敷き直し、ブランケットを掛け直す。
「……明日、朝イチで医者に行くからな」
有無を云わさぬ低い声で、エースはそう◆に云うと、部屋の灯りを落とし、そのままバスルームへと入っていった。
「…………」
シャワーの音が聞こえると、◆は痛む体を庇いながら、ゆっくりとベッドに横になる。
命を助けられ、怪我の世話をして貰ったのに、◆は真相を話せなかった。エースは怒ったようだが、それは“世話をしてやったのに”と云う気持ちからの感情ではない。
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