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「◆、じっとしてくれ。その傷をとりあえず塞いじまいたいんだ」
「こっ……、このくらい平気だし、余計なお世話……ッ!」
 大きな声を出すのもつらいのだろう、顔をしかめ苦しそうにする◆だったが、その顔からはどんどん血の気が失せていく。
「このくらいって……平気なワケ無ェだろ!?」
 痛みは酷く、血は足りない――気を抜いたら意識を失いそうな状況でも、◆は意地を張り、首を振った。
「もう放っておいてよ! あなたには関係無いんだから!!」
 しかし、喚く◆にお構いなしに、エースは処置を再開しようと足に触れた。
「ッ、自分で出来るってば――」
「いいから黙ってじっとしてろ!!」
「ッ――!」
 エースは初めて◆に怒鳴った。
 思わずビクリと震え、こちらを鋭い眼光で見つめたエースを見れば、口を引き結び、肩で大きく息をしていた。そのこめかみに汗が流れ、顎からポタリと落ちていく。
「…………」
 この部屋が暑いわけではない。暴れる◆相手に、なんとか応急処置をしようと動いているからだ。血は止まらず焦る中、◆は頑なに拒否をする。いくらエースでも苛立つのだろう。それでもその苛立ちをぶつけたくないと見えた――抑える為にか鼻でフーッと深呼吸している。
「…………っ」
 その様子に唇を噛んだ◆は、俯いて体の力を抜いた。
「……ごめんな」
 それを感じ取ったのか、エースは大人しくなった◆に固い声を短くかけ、処置を始める。
(なんで謝るんだろう……。自分が……エースが悪いわけじゃ、無いのに……)
 ◆は痛みに耐えつつ、前髪の影からエースを覗く。
 汗を拭いながら、ぐちゃぐちゃになった足を消毒し、包帯を巻いていく。手つきは無骨ながらも、◆の怪我をどうにかしてやりたいと云う思いは伝わってくる。
 彼の世話になるのはとても嫌だったが、その真剣な表情を見れば何も云えなかった。
 上半身にも傷が多く、エースに手伝われながら服を脱いだ。下着姿になり、胸元の傷を消毒され、軟膏を塗られる時ももう何も云わず、ただただ終わるのを待っていた。
 しばらく黙って作業をしていたエースだったが、最後にベッドの上に座り、背中の傷に薬を塗っている時に、ようやく口を開いた。
「……なァ……」
 張り詰めていた部屋の空気が、そのおずおずとした声で少し和らぐ。
「どうしたんだ? こんなに怪我ばっかりしてよ……。アイツらと何かあったのか?」
 その声にはもう怒気はない。また、何かを探ろうとしている雰囲気も感じられなかった。
「…………」
 いくらエースでも、“あの”状況を見れば何が起きたのか、◆が何をしたのか――真相に気付く筈だ。酷くカンが鈍いのならともかく、エースはあの場に来た。何かに気付いてあの岩場へ来たのではないだろうか。

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