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「――……こ、こ……」
 振り向くと、◆が目を覚ましたようだ。体を動かすのがつらいのか、首を少しだけ動かし、状況の把握をしている。
「良かった、気がついたか」
「ッ――!」
 エースの姿をみとめた◆は、すぐに起き上がろうとしたが、小さく呻いてベッドの上でうずくまってしまった。
「おいおい、動かねェ方がいい! つうか動けないだろ、こんな怪我してたら!」
 自分のカバンを持ったまま慌ててベッドへ駆け寄ったエースは、痛みに耐えて震えている◆の体を見下ろす。そこらじゅうに赤く血が滲み、今までの傷も開いてしまっている。特に足は素人が見ても放っておいてはいけないと思われる状態だった。
「……外は大騒ぎになってる。今医者に連れてく事は出来ねェが、応急処置だけでもしねェとな」
 エースはカバンをベッドに置き、そこから消毒液や包帯を取り出していく。
 不意にノックの音がして一瞬警戒するも、声を聞けば受付に居た男だった。ドアを開けると、脇に置かれたワゴンには氷水やらお湯やらタライやら。そして綺麗なタオル、脱脂綿などが用意されていた。
「これ良かったら……! あと、一軒だけ信頼出来る医者が……」
「おお、ありがとう! 恩に着るよ。ここに呼ぶのは難しいだろうし、朝イチで行くと伝えておいてくれるか」
「――はい!」
 痛みで朦朧とする頭を必死に動かし、◆はその様子を目を凝らしながら見つめる。
「痛ェと思うがもう少し我慢してくれ、な?」
 ワゴンをベッドの脇につけ、せっせとタライに湯を張り、タオルを浸す。そして、なるべく刺激しないようにしながらも、テキパキと◆の靴を脱がしにかかる。
「ッ……な、何してるの!? さ、わらないで――!」
 激痛に声を上げそうになりながら、エースの手から避けようともがく。
「おれじゃ嫌かもしれねェけど、そんな事云ってる場合じゃないからな。綺麗にしねェと菌が入る。痛ェのは分かるが暴れんな」
 割と無茶な事を云っているエースだったが、◆の怪我が酷くなければそのまま蹴り飛ばされそうな状況だった。しかし、今の◆にそんな力は無い。痙攣しながら逃げようとする◆の足から靴を脱がし、タライのタオルを絞る。傷に直接当てないようにと慎重にはなるも、悠長にやっている時間は無かった。
 もはや躊躇なく◆の足を掴み、血や土で汚れた部分を拭いていく。その間にも◆はギャンギャンと吠えた。
「やめてよ!! 自分で出来るから放して……っ!」
 力を振り絞って暴れる◆相手に、なんとか足を拭き終え、消毒と止血に取り掛かろうと必要な道具などに手を伸ばす。
 傷口を綺麗にする為に、脱脂綿に消毒液を含ませ、それをそっとあてようとするが、狙う場所に上手くあてられない。◆がもがくからだ。

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