31
 真夜中――間もなく日付が変わる。
 普段ならば、この時間はほとんどの店が閉まっており、大通りに面するバーなどが静かに営業している――と云うのに、現在、街は大騒ぎである。
 “串刺しのハルバード”と“海賊潰し”の対決があるらしい、と噂されていた夜――思わぬ目撃情報が、住民たちの眠気を吹き飛ばしたのだ。
「“火拳”が現れたって!?」
 何処から見ていたのか、カモフラージュしていたシャツの意味も無く、“火をぶっぱなしていた”と云う光景を目にした目撃者の話は、メラメラの火のように一気に広まった。
「それって“白ひげ”の……二番隊隊長だろう? 単独で居たってのか」
「どうやら女と二人で居たとか、庇ってたように見えたとか……」
「その女が“海賊潰し”の女かもしれないって!? 一体どういう事なんだ!?」
 それぞれが伝え聞いた話や憶測をやかましく話す。その住民の中には、あの“雑貨屋の女主人”の姿もあった。
「“火拳のエース”ってのは、イイ男らしいじゃないかい。一目見てみたいよ!」
 混乱や恐怖、ただの興味などが入り混じり、人々は興奮し、更に騒々しくなっていく。
 エースはハルバードらを片付けた後、野次馬が集まる前に素早く岩場から離れていた。意識を失った◆を抱え、街の中心部を避けるように茂みや暗がりの中を走り、住宅の屋根の上も移動に使い、何とか宿へと辿り着く。
 鍵は◆が持ってたな、と腰元のポーチを探らせて貰い、出てきた部屋番号入りの鍵を受付に提示した。
「……あ、……ッ」
 抱えた◆が酷い怪我を負っている事に気付いたのか、受付の男が息を飲んで目を丸くする。
「ん? あー……っと、コレで勘弁してくれよ」
 ポケットから、カウンターにエースが置いたのは、ベリー札やコインが数十枚――結構な金額である。
 ◆に口止め料を貰った時と同じように、受付の男は無言で何度も頷き、それを受け取った。そして、小さな窓口から「あのお……」と話しかける。
「何だ?」
「あっいえ、えっと。あの、お連れ様、大丈夫ですか……? 今朝……あ、もう昨日になりますが、明け方に大怪我をされた様子でフラフラと戻ってこられて……」
 二人とも只者ではない、と解っていながらも、気になるのかおずおずと話す男に、エースは表情を柔らかくさせた。
「そうか……昨日も……。まァ、迷惑はかけねェからよ。もしコイツの事、気にかけてくれるってんなら、イイ医者を教えてくれねェか? ただし、“カタギじゃねェのも”受け付けてくれるとこな」
 ニッとエースが笑うと、受付の男は力強く頷いた。
「は、はいっ! すぐに調べてお部屋にお知らせしますッ!!」
「おう、頼むよ」
 きっと信用しても大丈夫だ、とエースは自分の勘を信じ、足早に部屋へと向かった。
 ◆を抱えたままだったが、器用に鍵を開けて暗闇の中を進み、◆をそっとベッドへ寝かせる。
 ベッドサイドの明かりだけ灯し、背負っていた自分の荷物をテーブルに置いて中を漁っていると、後ろから小さく掠れた声が聞こえてきた。

- 31 -




←zzz
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -